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翌日、僕と父は森へ入った。積雪はあるが降雪はない。だが数日前から北風が吹いていた。数日のうちに吹雪が来るだろう。それが今日ではないとは限らない。だが獣は移動する。日を置けばまた見失ってしまうだろう。それに、多少の悪天候の日は狩猟に向いている。獲物に気付かれにくくなるため、いつもより獲物に近付くことができる。近付くことは即ち、命中率が上がることを指す。
ライフルを背負った父の背を追う。父の愛用する古いボルトアクションライフルは祖父の代から使われているものだと言う。ボルトアクションライフルは手動で銃弾の装填、発射、空薬莢の排出まで行う。連射を想定されていない、精密射撃に特化した一発必中の銃器。
僕が持つ二種類の猟銃も、どちらもボルトアクション式だ。一発目の発射で生じたガス圧で次弾が装填されるセミオート式もあるが、持たない理由はいくつかある。一つは子供の頃からボルトアクションライフルの扱いを父に叩き込まれていたこと。もう一つがスラッグ弾を使用できる散弾銃にセミオート式がないことだ。
先導する父が立ち止まる。前日見つけた餌場に辿り着いたのだろう。昨夜のうちに降った雪でその痕跡も消えているが、そう遠くない位置にいることは間違いない。警戒しながら獣の姿を探す。互いの姿が見える範囲で。
静けさの中で、僕は息だけをしている。森と同化して動くものの気配を探る。僕は獲物を撃つ時より、獲物を探して息を殺しているこの時が好きだ。この時が永遠に続けばいいと思う。静けさの中で響き渡る銃声は僕をいつも現実へ引き戻す。森の中こそが僕の故郷であり、僕の原風景だ。
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