白い闇

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 ホワイトアウトの発生条件は気温が低く風が強いこと、視界の高さに雪煙が舞い上がっていること。現代では車の運転中に起こることが多い。たとえば()()()の後ろを走行している時に。  その獣は僕の視界に突如として現れた。黒々とした豊かな毛並みに生臭い吐息が白く立ち昇っている——。  悪天候の日は雑音に掻き消され、獲物に気付かれずに近付くことができる——。  今や獲物は僕の方だった。  だが獣の方も突然現れた異物に驚いたようだった。吹雪は互いの臭いも痕跡も消し去り、何の準備もないままに邂逅が叶った。獣は耳と鼻がよく、目が悪い。遭遇した場合、その場で静止すれば気付かず通り過ぎていくこともある。だが正しく目と鼻の先。背を預けた木に阻まれ、引くことは叶わない。敵が引くのを待つか、先手必勝か。しばらくの間昏い瞳を見つめた。  最初に動いたのは僕の方だった。体が自動的に(セミオートで)弾を込めボルトを戻し、狙い、撃つ。急所は三つ。脳、首、心臓。大抵の動物と同じ。だが頭は小さく、バイタルゾーンが狭い。狙ったのは首。あわよくば心臓に達すればいいと思った。銃声と獣の苦悶の咆哮が響き渡った。  時速六十キロで走るその獣から生き延びるには、殺られる前に殺るしかない。即ち、獣が死ぬまで弾を撃ち込むより他にない。僕の体は次弾を装填しようとして、指先の震えが実包を取り落とした。背を見せれば死ぬ。せめて距離を取ろうと斜め後ろに飛び退き、僕は強かに背中を打ちつけた。  獣の咆哮が、爪が目前に迫った。瞬間、二発目の銃声が響き渡った。父が発砲したのだ。だがこの視界の悪さ、咆哮を頼りに撃とうとも当たるべくもなく。ただ音のする方向へ、獣の意識は持っていかれた。それだけで十分だった。僕が次弾を装填するには。
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