月夜に乞われて

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「お兄さん、もしかしてこれ飲んで気持ち悪くなったの?」 問いかけると頷いた。 そうだったのか。 でも、なんでトマトジュースで? 売ってるものだろ? まさか毒入り? 無差別テロか? 疑問ばっかりで答えはちっとも思い浮かばないけど、とにかくなんとかしてあげなくちゃ。 「まだ吐きそう? 俺スポドリ買ってくるよ。待ってて」 そう言って立ち上がる途中、左腕をガシッと掴まれて、不覚にも崩折れた。 アスファルトについた膝と手のひらが、痛いし冷たい。やっぱ今年は手袋買うか、とこんな時なのに心が決まった。 ただ、すっげえ吐いてる割に力はある。必死だから加減ができないんだろうけど。 こんなひ弱な俺に助けられるとかほんとは嫌なんだろうなぁ、と卑屈になる。 でも、やっぱりなんとかしてあげたい。バイト帰りだけど俺は今結構元気だし、声かけちゃったし。 「ごめん、バランス崩れた。すぐだから待ってて」 「ちが……」 「ん? なに?」 男はまた何かを言ったけれど聞き取れず、立ち上がりかけた途中の姿勢のまま訊き返す。
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