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Ⅰ.苛々する翁
昔々あるところに、竹取の翁がいました。名を讃岐の造と言います。仲間からは「サヌッキー」やら「オッキーナ」やら親しみを持って呼ばれていたそうな。
読んで字の如く仕事は竹取りをしています。決して身分の高いものではありません。それでも実直で竹を割ったような性格で、宮廷からも信頼され一目置かれた竹取りでした。
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今日も使い慣れた手斧を持って、竹を取りに竹林へと向かいます。
すると村外れの道で、周囲よりやや高貴な出で立ちの男と出会いました。
「おっす! サヌッキー」
「これはこれは、どうも」
「これから仕事っスか?」
「そうです、それしかすることないですから」
「そっかそっか、良い竹入ったら持ってきてよ!」
「承知しました」
高貴な出で立ちの男は、自分の数倍は生きているであろう翁の肩をバシバシと叩くと、そのまま去っていきました。
男の姿が見えなくなると、翁は呟きました。
「誰じゃ、あいつは」
翁は誰かも思い出せないような若輩者に馴れ馴れしくされたことで、苛々してきました。
思えばこの苛々は、昨晩、妻・おばあさんに言われた「竹でも抱いて寝ろ」という発言から始まっているのかも知れません。
この日の翁は、生涯で最も機嫌が悪いと言っても過言ではありませんでした。斧を握る手にも見るからに余分な力が入っています。
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