Ⅱ.光る竹

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Ⅱ.光る竹

 翁は足元の野草を踏みつけて進みます。その音からも翁の苛立ち具合が如実に伝わるようです。腰丈程の枝を見るやいなや中段蹴りを入れて歩く程度には荒ぶっていました。  まだ伐採をしていない竹林へと辿り着きました。ここらは翁の縄張りとして知られており、余所者は踏み入ることはありません。  翁はいつも、このプライベート空間で自我を開放します。 「ばあさんのくせに! 冷たい目で拒むんじゃない!!!」  翁は私的な感情を叫びながら、力強く天へと伸びる若竹に向かい垂直に接するよう鋭く斧を振るいます。  翁ほどの使い手になると一度のスイングだけで、若竹は円形の断面を露わにし倒れていくのです。 「宮廷付きか何か知らんが若者ごときが! 年配のものを敬わんか!!!」  また若竹に向けて叫びながら斧を振るいます。  まるで先程のリプレイ映像のように、若竹は無抵抗に倒れていきます。 「それ見たことか! ワシもまだまだ現役続行じゃあ!!!」  さてここからサビとばかりに勢いづく翁。  ――その時、翁の目に飛び込んできたのは見たこともない竹でした。  鮮やかな緑色の若竹の、根本に近い節の1つが、黄金色に輝いているのです。これには翁も勢いを削がれて目を丸くします。  長年竹取りをしている翁でも、このような竹は見たことがありません。  あろうことか翁は、それを見てまた苛々してきました。  ――自分がこんなに惨めな気持ちで竹に怒りをぶつけているのに。  その相手たる竹が美しく輝くなど、こちらを小馬鹿にしていると同義!  翁は力が抜けたようにだらりと斧を持つ手を擡げ、無表情のまま刮目だけしてボソリと独り言つ。 「……売り物にはならんが、今日は何となく、斧を縦に振り切ろうかのう」  翁は、力なく下がっていた腕を今度は頭上高く振り上げると、金色に輝く竹の節をひと睨みしました。 「竹の分際で!!! ワシよりも輝くんじゃあ、ないわ!!!」  パキン――!!!  翁はそのまま全霊の力を込め、会心の一撃を振り下ろしました。それを受けた黄金の節は甲高い破砕音を響かせながら真っ二つに裂けていきます。 『ひぃぃぃぃぃぃぎゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!!』  その時、この世のものとは思えない、禍々しい断末魔のような悲鳴が響き渡ります。その声は明らかに裂けた輝く節から発せられていました。 「な、なんじゃ!?」  困惑する翁をよそに悲鳴は響き渡り、それと連動するかのように竹がみるみる褐色に朽ちていきます。最後には砂粒のように塵となって辺りに降り注ぎました。  そこには元々何もなかったかのように、灰のように積もった塵だけが残されました。翁は唖然とします。
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