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Ⅲ.あなたの娘
翁は後悔しました。大変なことをしてしまったと。
きっとあの輝く竹は神様の遣わした何らかのものであったのだ、そして自分は怒りに感けてそれを破壊してしまったのだと。
「……なんてことじゃ、すみません、すみません、どうかご慈悲を……」
翁は塵の前に膝をついて両掌をすり合わせました。
すると塵の山がごそごそと蠢き出しました。翁はそれに気付き、慌てて動いている周囲の塵を優しく手で払っていきます。
『……ナンテコト、ナンテコト』
翁の頭の中に声が響きました。感情がそのまま流れ込んでくる、翁にはそのように感じられました。
すると塵の中から小さな金色のゼリー状の物体が現れました。とはいってもこの時代にゼリーはないので、翁的には「ナメクジ」に見えました。
『……カラダクダサイ、カラダクダサイ』
また頭の中に声が響きます。
翁は金色に輝くナメクジに向かって問いかけます。
「これはお前の声か? 何者なんじゃ?」
金色の身体をプルプルさせながら、返事とばかりに声を響かせます。
『私ハ、娘。アナタノ、娘。デモ身体、壊レタ。コノママジャ、消エルダケ』
その言葉を聞くと、翁の身体に総毛立つ感覚が走りました。
翁にとって「あなたの娘」というのはそれだけ大きな言葉だったのです。
翁とおばあさんの夫婦は幸せでしたが、子供だけは授かることが出来ませんでした。そんな悩みと闘いながらも、翁はこの歳まで実直に仕事をこなしてきました。いつかきっとその報いがあると信じながら。
ついに神様が子供を遣わせて下さったのだ――。
翁にはそんな風に感じられたのでした。
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