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Ⅴ.兎姫
そこからが大変でした。
赤ん坊を抱えて帰ってきた翁に対し、おばあさんは「誘拐犯」や「人でなし」などの罵声を浴びせて全く聞く耳を持ちませんでした。
しかし赤ん坊の頭から、まるで兎のような大きな耳が生えていることに気付いたおばあさんは、ようやく翁から事情を聞き始めました。
事情を知ったおばあさんは、涙を流して喜びます。翁同様、おばあさんも子供を授かりたくて仕方がなかったのです。
2人はこの赤ん坊に「兎姫」と名付けました。白兎然とした白い肌と、大きな耳がその決め手です。はじめは「白兎姫」という名前も候補にあがりましたが、「白だと雪のヤツとかぶる」とおばあさんが危惧したため、シンプルな「兎姫」となりました。
兎姫はそれは正に竹の子が若竹になるように、清く美しく勢いよく、健やかに成長していきました。5年が経過する頃には、兎姫はすっかり年頃の女性とそう変わらない容姿へと成長してしまいました。
そして特筆すべきはその美しさです。白兎から受け継いだ大きな耳も大きく成長し、長い亜麻色の髪の毛の中からピンと伸びて愛らしく。
透き通るような白い肌も健在で、眉目秀麗な顔立ちをより引き立てています。
おじいさんも嬉しそうに兎姫の耳を撫でながら「あざといのお、あざといのお」と言うのが日課となっていました。
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