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Ⅶ.求婚
――翌朝。
すっかりと身なりを整えた石上が翁を訪ねました。右手人差し指を大きく腫らしながらも、凛々しい表情を作っています。
「サヌッキー! いや、讃岐の造よ、いるか」
「はいはい、なんでしょう。どうしたんです、そんなに畏まって?」
扉を開けて翁が姿を表すや否や、石上は立膝を付きます。
「讃岐の造……いや、お父さん! 娘さんを俺に下さい! あと竹も!」
「はあ!?」
「昨夜見てしまったんだ、あんたの娘を! なんだよあれ反則だって、あざとすぎだって!」
「み、見たのですか、兎姫を!?」
「兎姫!? あの娘、兎姫と言うのか、名前まであざと可愛いじゃないか!」
おばあさんが、翁の背後から鬼の形相で姿を現します。
「チイッ!!! じいさんめ名前をバラしよって!」
おばあさんはそのまま翁の両肩を引き寄せて、腹部に膝蹴りを見舞ました。
「ふぐっ!!!」
翁はその場に倒れ込みます。これ以上の情報漏洩をさせる訳にはいかないと判断した、おばあさんのファインプレーでした。
「……えげつねえ」
「石上殿、あんたもこうなりたくなけりゃ、お引取り下さい」
おばあさんは親指を下に向けて翁を指すと、そのままその手を自分の首の前で横にスーっと動かしました。威嚇行為です。
「おのれババア、そんな侮辱行為をして、ただで済むと思うのか!?」
「娘を奪われるくらいなら、どうなっても構わんね!」
おばあさんは両目を見開き、尚も威圧感を放ちます。これには石上も身の危険を感じ、後退るしかありませんでした。
「チ、チクショウ! こうなりゃもう、帝様に言いつけてやるからな!」
そう言い残すと石上は涙目で駆け出して行きました。追い払うことに成功したおばあさんは、今度はその背中に中指を突き立てます。そしてこう吐き捨てたのです。
「ふん、怪我をした指に竹輪くらいはめてやれば良かったかのう!」
翁は朦朧とする意識の中、改めておばあさんのことを頼りになると思いました。
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