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第3話「……これはこれで、悪くない感じだ」
(UnsplashのJC Gellidonが撮影)
クルティカは黒い髪を振りたてて、龍の首にまたがる幼なじみに叫んだ。
「ロウ、剣を引くんだ! 『首落としの呪文』を唱える前に龍の首が落ちると、最後の呪いを浴びるんだ!」
「だけど! 何もしていないのに、龍が勝手に剣に突っ込んでくるのよ。どうしたらいいのよ!」
ロウ=レイは細い剣を抱えたまま、俊敏に動く長い首から逃れようとする。
しかし老練な龍はロウの考えを読んでいるように、一手ずつ、一手ずつ先回りして動きを封じていく。
『小娘、首とともに呪いを受けよ!』
龍はロウ=レイに追いつき、レイピアへ首を押しあてた。そこへクルティカが滑り込む。
「ロウ、どけっ!」
どんっ、とロウ=レイを突き飛ばし、代わりに長剣を構える。ロウは転げ落ちながらも受け身を取り、無事に着地した。
それを見届けて『首落としの呪文』をとなえようとしたとき、龍が自分のウロコを一枚くわえ取ってクルティカの腕に押し当てた。
「あがあああっ!」
激痛でクルティカが叫ぶ。まがまがしい毒ウロコは、あっというまに皮膚の下へ食いこんでいく……。
そのすきに、龍は首をクルティカの長剣に押し当てて、みずから一気に斬り落とした。
しゅううううっ! と、首だけになったドラゴンは最後に濃厚な臭気を吐き出した。
『て……天の眷属を……無法にあやめし者は……剣に拒まれる。
剣を持つたびにウロコの毒が回る。おろかな……人間ども-……汝の宿命を恨め』
どざっ! とドラゴンの身体が倒れた。ロウ=レイが駆け寄ってくる。
「ティカ! 毒出しを――あっ! 腕が!」
ロウが声を失った。クルティカは必死で目を開けて、腕を見た。
見なければよかった、と思った。
毒ウロコが入り込んだ右腕は指先からどす黒く変色しはじめている。不気味な筋が指から手首に向かって走り、血管に沿ってうごめいていた。
「ティカ! しっかりして!」
ロウ=レイの悲鳴を聞きながら、クルティカの意識はゆっくり遠のいていく。
かろうじて頭に残っていたのは――このどす黒い傷が、ロウの腕に残らなくてよかった、ということ。
そして自分は、もう二度と剣を持てないということ。
「ティカああああ!」
ロウ=レイの悲鳴が聞こえる。ふっくらした胸がクルティカの顔に当たり、ふるんふるんと揺れた。
……これはこれで、悪くない感じだ。
柔らかい胸の感触を味わいながら、クルティカは気を失った。
ホツェル王国史上、最年少で騎士になったクルティカ・ナジマは、剣をもてない騎士となった――皮肉な宿命だ。
瞬間沸騰する美少女騎士が、むだに大きな胸を持っているのと同じくらいに、皮肉だ。
ふるんふるんふる……。
こうしている間にも、古龍の呪詛はクルティカに食い込んでいくのだが……。
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