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もう一つ、小さな門を抜けて屋敷にたどり着く。
ぴゅうっと音を立てて強く冷たい風が吹く中、タクシーからトランクを下ろし風に煽られる髪の毛を押さえる。
目の前には歴史を感じさせる石造りの壁と黒ずんだ深い青の屋根の重い印象のお屋敷。
所々枯れた蔦が巻きついている。
意を決して屋敷の重厚で大きな扉の横にあるベルを鳴らす。
しばらく待たされ中から出て来たのは、痩せた体に黒いスーツを纏い、白髪混じりの黒い髪の毛をオールバックにした50代ぐらいの執事らしき人で、名前を名乗ると奥へ案内してくれた。
屋敷の中は豪華ではあるけれども、なにか時代遅れな陰鬱な印象を受ける。
廊下に並ぶ見上げるほどの大きな窓にはゴブラン織の重いカーテンがかけられ、弱い日差しは隙間から筋となって差しているのみ。
開け放して窓を開ければ、この澱んだ空気も一掃できるだろうに、と思う。
長い廊下を抜け、案内された部屋には、40代と思しき美しい女性が車椅子に乗って待っていた。
金色の長い髪がワインレッドのワンピースによく映えている。
この部屋はこれまでの印象とは違って、この女性の好みなのか壁は明るい白い壁にマホガニー材の床、調度品はマホガニーと水色のテキスタイルで居心地良さそうにまとめられている。
窓も、家具と同じ水色を基調としたカーテンが開けられて美しく手入れされた庭がよく見える。
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