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―ブラックブラックコメディアン
―ジョーク大好きコメディアン
―うっかり穴に落ちたって
―全身血まみれになったって
―みんな大好きコメディアン
―ブラックブラッディコメディアン
「ブラックコメディアン…」
何を思ったのが、私の口からはそんな言葉が飛び出した。
「何? CMの? 」
西浦は「ちゃんと聞いていたの? 」と言わんばかりに首をかしげた。
そして、「僕、あのCM嫌いなんだよね。人気だから真似はしていたけれど」と唇を尖らせた。
「だって、そうでしょ。あんなしょぼいおっさんよりも、僕の方がよっぽど『ブラックブラッディコメディアン』じゃない? 」
西浦の顔は、柔らかな笑みを浮かべたかと思えば、一瞬で無表情に転じた。
「僕は今、自らお願いして、全く光が差さない独房で過ごしています。ようやく他人の目を気にしなくていい。喜ばせようとしなくていい。死を待つ時間は、とても静かで、穏やかで。ガチャついた人生から、ようやく切り離された。解放された気分です」
ぼそぼそと、そうつぶやくと、スッと席を立った。
「あ! ちょっと待って! あなたは何でこんなことを。本心を教えてほしいのだけれど。あなたの本当の意思を」
私の腕は思わず伸び切り、遮蔽版にぶつかった。
西浦はハハッと冷笑し、舌を出しておどけた表情を作った。
例のCMの一発芸人が、最後に見せるそれ、そのものだった。
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