1/1
前へ
/11ページ
次へ

 ―ブラックブラックコメディアン  ―ジョーク大好きコメディアン  ―うっかり穴に落ちたって  ―全身血まみれになったって  ―みんな大好きコメディアン  ―ブラックブラッディコメディアン  「ブラックコメディアン…」  何を思ったのが、私の口からはそんな言葉が飛び出した。  「何? CMの? 」  西浦は「ちゃんと聞いていたの? 」と言わんばかりに首をかしげた。  そして、「僕、あのCM嫌いなんだよね。人気だから真似はしていたけれど」と唇を尖らせた。  「だって、そうでしょ。あんなしょぼいおっさんよりも、僕の方がよっぽど『ブラックブラッディコメディアン』じゃない? 」  西浦の顔は、柔らかな笑みを浮かべたかと思えば、一瞬で無表情に転じた。  「僕は今、自らお願いして、全く光が差さない独房で過ごしています。ようやく他人の目を気にしなくていい。喜ばせようとしなくていい。死を待つ時間は、とても静かで、穏やかで。ガチャついた人生から、ようやく切り離された。解放された気分です」  ぼそぼそと、そうつぶやくと、スッと席を立った。  「あ! ちょっと待って! あなたは何でこんなことを。本心を教えてほしいのだけれど。あなたの本当の意思を」  私の腕は思わず伸び切り、遮蔽版にぶつかった。  西浦はハハッと冷笑し、舌を出しておどけた表情を作った。  例のCMの一発芸人が、最後に見せるそれ、そのものだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加