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今日の取材相手は、渋谷スクランブル連続殺傷事件で、十一人を殺害、七人に重軽傷を負わせた青年。
上司から頼まれたのだが、いまいち気が乗らない。
そもそも、私は社会部の記者になりたかったわけではない。
本当なら、文化部で料理や芸術の記事を書きたかったのだが、現実は厳しいもので。
今の生殺しの状態を続けて、もう十年になる。
経験だけは培ってしまい、私の脳にはサイレン音のように、ある台詞が響いていた。
「どうせ中二病をこじらせた愚かな男だろう。こんなことが特集記事になるのか」
散々、悪態を繰り返していると、ドアノブがギィッと軋む。
姿を現した青年は、黒髪をなびかせて、遮蔽版を挟み、真正面にすとんと座った。
まだあどけなさが残る爽やかな美丈夫。
二十歳と聞いているが、実際にはもっと幼く見える。
青年は長く垂らした前髪の隙間から、私の頭の先から爪の先までまじまじと見つめて、薄い唇を開いた。
「お姉さん、嫌々ここに来たんじゃない? 」
心を見透かされた。
「え…」
目を見開いていると、彼はニコッと微笑み、「やっぱり」と頬杖をついた。
「こんな頭のおかしい殺人鬼とは、お喋りするのも嫌だよね」
「そんなこと」と言葉にする前に、「まぁ、僕、文才があるからさ。ちょっと自分の人生をまとめてみたんだよ。今からその話をするね」と遮られた。
彼を信じるべきか、否か。
熟考しているうちに、殺人犯の自分語りが始まってしまった。
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