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 ところが高校にもなると、周りの学力はさらに上がり、薄っぺらいお笑いには、みんな見向きもしなくなった。  どうしたら、クラスの中心人物に返り咲けるのかと突き詰めて考えていたころ、再び転機が訪れた。  それは、何気ない日常の中。  二限目の現代文の時に起こった。  勉強にもプライベートにも身が入らず、ただ過ぎゆく日々に身を置いていた僕。  何となく背伸びすると、先生から挙手をしたものだと捉えられ、「はい、じゃあ西浦君」と質問を投げかけられた。  僕には解答どころが、その問題すら分からない。  頭の中が真っ白な状態で何となく起立し、「えーっと…」とおどおどしながら、あたりを見渡した。  クラスの三十八人と先生。  張り詰めた静けさの中で、七十八の瞳が一斉にこちらを刺すように凝視している。  その刹那、これまで味わったことのない感覚が、激しく、全身を通り抜けていった。  緊張と沈黙に包まれて、満たされていく承認欲求。  「あぁ、もしかしたら、これが、僕の足りない何かを埋めてくれるものなのかもしれない」と。  その後は、確信犯となり、挙手をしては間違えるのを繰り返し、クラスの笑いと注目を集めた。  徐々にみんなが飽きてきたことを察してくると、早弁をしたり、昼頃に登校したりして、「悪目立ち」のレパートリーを増やしていった。  それでも、人間は真新しさを求めるもので、一カ月も経たないうちに持てる手段がなくなった。
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