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(……今日は何だかすごい日だったな)
ユノースの部屋の机の上には、陶器のカップに白と青の花が咲いている。そして、小さな紙包みが二つある。ウィラードとアルシュから贈られた菓子だ。
アルシュが花売りの少年から買った花は、「お前が欲しがっていたから!」と強く言われたのでもらってきた。ユノースは、特に花が欲しかったわけではない。あんな小さい子が頑張って働いているなら買ってあげたいと思っただけだ。アルシュに「紫がお好きな色なんですね?」と聞いたら真っ赤になっていたのを思い出す。
ユノースは、今日一日でアルシュへの見方がずいぶん変わったのを感じる。店では菓子の選び方を色々教えてもらって、とても勉強になった。
王都には、リーシェにないものがたくさんある。素直にそう言ったら馬鹿にされるかと思ったが、アルシュは馬鹿にしなかった。自分の知らないことを一つ一つ丁寧に教えてくれた。ローランドの好みもアルシュに聞いて無事に菓子を購入し、ほっと一息ついた時のことだ。
「ユノースの好きな菓子は何だ? この中に食べてみたいものはあるか?」
そんなことを聞かれるとは思わず、アルシュの顔と並んだ菓子とを交互に見てしまった。リーシェでは王都のように美しい菓子などなかったから、どれがいいかと言われても困る。悩んだ末に、真っ白で丸い焼き菓子を指さした。
「これ……。食べたことはないですが、雪みたいです」
「ああ、雪の玉を模して作った菓子だ。口に入れるとほろりと崩れる」
アルシュはこれも包んでくれと言い、全ての買い物が終わった。店を出てから、アルシュはユノースに小さな包みを渡した。
「これはお前にやる」
「え、でも、これ」
「それは公爵家の金ではなく、俺の金で買ったものだ。食べたことがないんだろう? 知っていることは一つでも多い方がいい」
「あ、ありがとうございます」
それきりアルシュは何も言わず、屋敷まで二人で黙って歩いた。ウィラードのところに揃って買い物の報告に行けば、当主は楽し気に微笑んでいる。買ったばかりの菓子をウィラードがユノースに贈っても、アルシュはそ知らぬ顔をしていた。
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