3.雪菓子と紫の花

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「先代のエドアルド様は先王の弟殿下、つまり王族だ。自由闊達なご気性で、気に入りのセオドア様を自分の側にと仰った。それでは困ると息子のウィラード様が止めたんだ。そこで親子が話し合った結果がこれだ」 「でも、屋敷の行き来なんて、大変ではありませんか?」 「……セオドア様もお気の毒だが、俺もそろそろ限界だ。三か月なら、まだ何とかなったんだが」  王都の屋敷と南領の屋敷では、馬車で片道一週間はかかる。すぐに移動というわけにはいかないのだ。家令のセオドアが帰らなければ、代わりの仕事は執事のアルシュがこなさなければならない。手が足りないのは当然で、アルシュのやつれた顔を見て、ユノースは気の毒でたまらなかった。 「ぼ、僕でよければお手伝いします」 「最初は簡単なものでいい。一緒にやってくれたらありがたい」  ユノースは嬉しかった。自分でも役に立てるのかもしれない。  人前では厳しいアルシュが、ユノースと二人きりになると全然違う態度を見せる。二人だけの時のアルシュは、ユノースを馬鹿にすることもなければ声高に罵りもしない。わからないことは丁寧に教えてくれるし、努力したこともきちんと評価してくれる。頑張っているな、助かるよと言われた時は、ユノースは感激してこっそり泣いた。  夜遅くまで仕事が終わらなかった日は、アルシュが自らお茶を淹れてくれることもあった。香り高い紅茶に添えられたのは、あの丸くて白い焼き菓子だ。口の中でほろほろと溶ける甘い菓子を食べながら熱い紅茶を飲めば、疲れはたちまち消えていく。 「ユノースは、その菓子が好きだな」 「はい。大好きです! これを食べると、アルシュ様がくださった時のことを思い出します」 「……そんなに好きなら、また買ってやる」  ぷいと顔をそむけたアルシュの頬がうっすら赤くなっている。 (アルシュ様は結構、照れ屋なんだな)  ユノースは嬉しくなって、アルシュの横顔を見つめて微笑む。アルシュは自分の分の菓子を全て、ユノースの皿に入れた。
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