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4.手紙と願い
季節が少しずつ移り変わる頃、故郷のリーシェからユノース宛てに一通の手紙が届いた。それは、ユノースの兄からのものだった。
父が体調を崩して執事を辞することになり、自分が後を継ぐ。お前さえよければ、そろそろこちらに帰っておいで、と書かれていた。セドリック様や伯爵からも許可をいただいた。半年の間に様々なことを学んだだろう、お前が側にいてくれたら嬉しい、と。
リーシェにすぐに帰ってこい、とは書かれていなかった。ユノースの兄は心根の優しい人だ。自分が大変な状況でも、おいそれと口に出しはしない。弟の気持ちを一番に考えてくれる兄の思いやりに胸が詰まる。
ユノースは手紙を読んで初めて、自分が故郷のことを長く思い出さずにいたことに気がついた。以前はリーシェが恋しくて毎日のように泣いていたのに。
手紙を封筒に収め、ユノースはすぐにウィラードの元を訪れた。ウィラードは絹張りの椅子に腰かけて、ユノースを真っ直ぐに見つめた。
「セドリック叔父上から手紙を受けとったよ。さぞや家族が心配なことだろう。リーシェに帰るかい?」
「はい、ウィラード様。お許しいただけますなら、故郷に帰って兄の助けになりたいと思います」
「お前は優しい子だからね、きっとそう言うと思っていた。大層寂しいが仕方がないな。ここに来たくなったら、いつでも戻っておいで」
「ありがとうございます。こちらでは、たくさんのことを教えていただきました」
「ユノースがいなくなると、我が家が立ち行かなくなるような気がするな。本当に、いつでも戻っておいで。本当に……」
ウィラードが物憂げな表情で呟く。ユノースは目の奥が熱くなるのを感じた。公爵が何か言いかけてやめた理由を考える余裕はなかった。僅かな間でもここで過ごせてよかったと思い、心から感謝を告げた。
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