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ランヴィル公爵家は現王の従兄弟であるウィラードを当主に、王都と南部に広大な領地と財産を有する大貴族である。繊細な蔦模様を表面に配した銀杯は、先代の公爵が兄である先王から贈られた宝だ。
執事が厳重に管理する宝をぞんざいに扱った愚か者。ユノースの評判は、地に落ちたも同然だった。
その晩、ユノースは自室のベッドの上で膝を丸めて、ぐすぐすと泣き続けた。
(やはり向いてないんだ。僕に執事なんて出来るわけがない)
アルシュの言葉を思い出せば思い出すほど、ユノースの涙は溢れて止まらない。
「ごめん、ユノー」
従僕頭のヘンリックがうなだれたまま、ユノースのベッドの脇に立つ。
「あの後、何度もユノーのせいじゃないってアルシュ様に言ったんだ。でも、もうその話はいいと聞いてくださらなくて……。ユノーだけを、皆の前で悪者にしてしまった。本当にごめん」
ユノースはヘンリックの言葉に、ぶんぶんと首を横に振った。
「いいんだ。銀杯が晩餐室にあったのは本当だし、僕はこちらに来て日も浅い。ずっと公爵家に仕えてきた人たちを疑うようなことを、アルシュ様が口にするわけにはいかないよ。ヘンリックだって、従僕頭なのに皆とうまくいかなくなってしまう」
「ユノー! でも、君だけが悪く言われるのは違うよ」
従僕頭のヘンリックは、ユノースと同室だ。ユノースが公爵家に来た時から、屋敷のことを一つ一つ丁寧に教えてくれた。同年代の二人はすぐに仲良くなり、ユノースは親切なヘンリックを仕事の先輩であり、大事な友人だと思うようになった。
「あの時、ヘンリックは一緒に来てくれただけだ。銀杯を片付けるようにウィラード様に直接言われたのは、僕だもの」
「執事のアルシュ様がいない間は、僕が食器室や鍵の管理を任されているんだ。当然、僕にも責任がある。ユノースのせいにしないで、銀器を棚から出したやつを探す方が先じゃないか。それに、アルシュ様の言い方はあまりにもひどすぎるよ」
(確かに、話をろくに聞きもせずに、あんな言い方は無いと思う……)
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