1.銀杯と鬼執事

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 おとなしいユノースも、アルシュの言葉はひどいと思った。でも、あの黒い瞳に冷たく睨まれた途端、何も言い返すことが出来なくなってしまうのだ。 「アルシュ様は普段、屋敷の他の者にあんな言い方はなさらない。どうしてユノーにばっかりひどいことを言うんだろう……」 「そ、それは、ぼくがよそ者で田舎者だからだよ。僕は公爵家にずっと仕えている人間じゃないし、はじめてリーシェの出身だって言った時も、ひどいことを言われたもの」 「うーん、リーシェは確かに王都からは遠いけど、そんなにひどい田舎のイメージじゃないよ。むしろ、美男美女が多くて神秘的な土地だって言われてるし」 「そんなの、アルシュ様には関係ないんだ。僕なんか、今すぐリーシェに帰ればいいって思ってるんだよ」  ヘンリックは、納得できない顔で首を傾げた。 「ユノーは元々、セドリック様の紹介でやってきたんだろう? ご当主のウィラード様にも可愛がられてるし、アルシュ様が一番大事に育てていく人材のはずなんだけど……」 (人から見れば、その通りかもしれない。でも、現実は大事どころか、いつも冷たい視線を向けられるか、嫌みな言葉を言われるかだ) 「か、帰れるものなら、今すぐ執事見習いなんかやめてリーシェに帰りたい……」 「ユノー……」  自分を睨みつける切れ長の瞳が浮かんで、ユノースの心はますます暗く沈んでいく。膝に抱えた枕に、思い切り強く顔を埋めた。 (……ああ、本当に、故郷のリーシェに帰れるものなら)  ユノースは国の中でも風光明媚な土地柄で知られるリーシェ地方の出身だ。  実家は、領主であるカスター伯爵家に代々仕えてきた。祖父の代から執事を務めるようになり、現在は父が、将来は兄がその座を継ぐと言われている。  リーシェには山や森林、湖がたくさんあり、昔から妖精が住むとの伝説がある。国のおとぎ話の大半はリーシェで書かれたと言われるほど美しい土地だ。
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