2.妖精と公爵の思惑

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2.妖精と公爵の思惑

 ランヴィル公爵家の執務室には、三人の男がいた。  当主のウィラード、公爵の親友であるローランド、そして執事のアルシュだ。  アルシュは二十代にも関わらず、当主と使用人たちの圧倒的な信頼を得ている。そのアルシュが、当主のウィラードを見て冷ややかに告げる。 「旦那様、恐れながら、これ以上、ユノースに身の丈に合わぬ仕事をさせるのはお控えください。今回の銀杯は、最悪紛失となればお家の大事となったことでしょう。ユノースも罰を受けるのは免れません。いくら本人が返却したと言っても、晩餐室にあったのは事実です」 「全く、誰の仕業なのか。あの真面目な子が銀杯をしまい損ねるわけがない。ヘンリックも一緒に確かめているし、第一、鍵をかけたのはヘンリックだろう?」 「……これが初めてではありません。ユノースは、これまでにも何度も嫌がらせを受けています。今回のことは悪質だと思いますが」 「よく知っているねえ。さすがは我が執事」  にっこりと微笑むウィラードを、アルシュは歯ぎしりしたい気持ちで見つめた。ユノースが嫌がらせを受けているのは、明らかにウィラードに原因がある。 「そもそも、なぜ旦那様は銀杯をお使いになられたのですか? 滅多にお出しになりませんのに」 「久しぶりにローランドが来てくれたから、土産の葡萄酒を開けたんだよ。良い酒には、良い器が必要だろう?」 (なるほど、それならば仕方がない。てっきり、もっとろくでもない理由なのかと思った……)  アルシュが何とか自分の気持ちを平静に保った時だった。 「……というのもあるが、実はユノースに見せてやりたくなってね」 「は?」 「ほら、あの子は珍しいものを見ると、ぱっと目を見開くだろう? きらきらした瞳で夢中になるところが可愛いんだ。銀杯の話をしたら目を輝かせていたから、実際に見せたら、もっと喜ぶかと思って」 「……」 (そ、そんな理由で? 先王から賜った宝を? 好きな女の気を引くのと変わらないじゃないか……)  アルシュの眉間に皺が寄る。執事の顔色が変わるのを見たローランド・バウアー侯爵が割って入った。
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