2.妖精と公爵の思惑

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「まあまあ、アルシュ。ユノースって、あの綺麗な子だろう? まるでおとぎ話の妖精のようで驚いたよ。ウィラードは大概悪ふざけがすぎるが、あの子の喜ぶ顔を見たくなる気持ちは確かにわかる」 「ふふふ、そうだろう? 全く今回はユノースには可哀想なことになってしまった。何か菓子でも贈って慰めてやりたいな……。そうだ、アルシュ、いつもの店で最近流行りの菓子を買ってきてくれ。ついでに不届き者を探し出してほしい」  アルシュは眩暈がしそうだった。当主が新入りの執事見習いを気に入って可愛がっていることは、屋敷中の者が知っている。そして、その態度こそが問題なのだ。ユノースがどんなに頑張っても、評価されるのは主の贔屓(ひいき)だと思われてしまう。その上、妬みから様々な問題が起きていた。主に態度を控えるよう進言したり、ユノースが争いの種にならないようにと気を配ったり、アルシュの仕事は増えるばかりだった。 「ああ、他の者に任せるのは心配だな。お前が直接、店に行って買ってきておくれ。アルシュ、早い方がいい」 「……かしこまりました。では、ただちに」  執事が出て行ったあと、ウィラードは上機嫌で笑い出した。 「大層面白いものを見られたな。アルシュがあんな顔をするとは」 「君の執事はいつもながら、趣味の悪い主に振り回されて、気の毒としかいいようがない」 「セドリック叔父上がユノースをよこしてくれたおかげで、毎日が刺激的だ。当分退屈せずにすむ……」  公爵家当主ウィラードは、端正な顔に満面の笑みを浮かべていた。  アルシュは、王都でも有名な菓子店に向かって、自ら足を運んでいた。  主が早くしろと言うのだから、すぐに手に入れなければならない。菓子なぞ厨房でいくらでも作らせることが出来るのにわざわざ買いに行けと言うのは、珍しいものを見つけてこいということだ。しかも、彼の……、ユノースの喜びそうなものを。 (……くそっ、何で俺が! 何で)  アルシュは自分でも自分の感情をうまく処理できなかった。石畳を蹴るように歩いている自分に気づいて、ため息が出る。普段ならば、こんな拗ねた少年のような歩き方はしない。幼い頃から、養父である伯父に徹底的にマナーを叩き込まれてきたのだ。伯父のハンスはランヴィル公爵家の執事だった。
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