戦線離脱

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 静寂の中で目を覚ました。  ここはどこだ?  目の前にあるメインモニターは真っ黒だ。その周りにあるサブモニターも皆黒く、何も映し出していない。警告音も情報を伝える音声もない。  僕は周りを見た。三つの小さなモニターだけが生きている。  ハンドルや幾つかのスイッチを動かしてみたけれど何の反応もなかった。  一瞬のことでわからなかったが、多分直撃弾を食らったのだろう。その時に気を失ったらしい。  モニターのほとんどがいかれてしまったという事は、メインの動力バッテリーとサブの動力バッテリー、両方とも破壊されてしまったとみて間違いなさそうだ。幸い、生命維持用に積まれている小型補助バッテリーは助かったらしい。  小さなモニターから読み取ると、今いる座標は戦闘区域からかなり離れた場所になる。直撃弾を受けた反動で、相当な勢いで宇宙空間を突き進んできたらしい。いや、今でも突き進んでいる。  補助バッテリーから発する微弱な救助信号を友軍は見つけてくれるだろうか。望みはかなり薄い。  補助バッテリーが作動しているという事は、機体の周りに太陽光パネルが自動で張り巡らされているのだろう。多分僕は生命維持のためのバッテリーが尽きる前に飢えて死ぬ。非常用の携帯食料は数日分しかない。  僕は生きている。コックピットも破壊されていない。という事は核融合エンジンは壊れていないと考えられる。戦闘中にそこを破壊されればコックピットなど跡形もなく吹き飛んでしまう。緊急の安全装置が作動したとしても、何らかのダメージは残るはずだ。  僕は何とかエンジンを動かせないかと周りのスイッチを動かし、それ以上に自分の頭を働かせた。しかし核融合エンジンを制御し、操るのは電気だ。小さな補助バッテリーでは手に負えない。たとえ補助バッテリーの電源をエンジンの方に回せたとしても、容量が小さすぎてどうにもならない。  僕は諦めて死を覚悟した。  戦場でひと思いにぱっと死んでいくのならまだいい。ろくに身動きもできない狭いコックピットの中で、何の暇つぶしもなしにただ何日間も死が訪れるのを待つなんて最悪だ。何か生還できる方法はないだろうか。死ぬまで悪あがきをしてやる。  そんなことを考えている時に無線が反応した。  僕は慌ててスイッチを入れる。 “話しはできるか?” 「できます」  僕は冷静になって応えた。 “怪我は?” 「ありません」 ”55分後くらいに追い付けそうだ。何しろおたくは凄いスピードで突っ走っているから、追い付くのに一苦労だ。機体の操作はできないんだな?“ 「はい。メインとサブ、両方のバッテリーをやられたみたいで」 ”わかった。もう少し待ってろよ、ベイビー“ 「了解です」  えらく陽気な通信員の声は切れた。
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