呪いのチェキ

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呪いのチェキ

「おいおい、賀茂(カモ)。ふざけるのもたいがいにしろよ。なんだ。『呪いのチェキ』だとォ?」  北原ヒロキは半ば呆れた顔で正面に座わる賀茂(カモ)正行(タダユキ)を睨んだ。  賀茂(カモ)の先祖は元陰陽師だったと言う話しだ。もちろんヒロキは一笑に付した。くだらない(ニセ)情報だと思っている。 「いやァ、マジなんだって、このチェキは……」  そう言って賀茂(カモ)は苦笑いを浮かべヒロキの方へ『呪いのチェキ』を押してきた。  ここは駅前にある喫茶店『ソレイユ』だ。  ブラインドの外は夏の眩しい日差しが降り注いでいた。今日も間違いなく酷暑日だ。  ちょうどアイスコーヒーの氷が溶けてグラスとぶつかり『カラン』と涼やかな音を立てた。  店内には懐かしいあいみょんの『マリーゴールド』が流れている。妙にノスタルジックな気分になった。  北原ヒロキは、親友の賀茂から借金を返してもらおうと駅前の喫茶店に呼び出した。 「いいか、賀茂(カモ)。必ず今日返すって約束だろう」 「だからあと十日待ってくれよ。バイト代が入るから。その代わりに、この『呪いのチェキ』を担保に差し出すからさ」  また賀茂(カモ)はテーブルに置いたチェキをヒロキの方へ押した。 「おい賀茂(カモ)ォ。笑わせるな。なにが『呪いのチェキ』だ」  ヒロキは付き合っていられない顔をした。 「ヘッヘ、マジなんだって。これは!」  賀茂は肩をすくめ照れ笑いを浮かべた。 「どこがだよ。昭和の『都市伝説』じゃないんだからな」 「信じてくれよ。『都市伝説』じゃないんだって。マジなんだ。この『呪いのチェキ』は!」  賀茂はまた指先でチェキを突っついた。 「フフゥン、さすがニセ陰陽師だなァ。賀茂ォ!」 「別に陰陽師じゃないけど……」  賀茂も苦笑いをしてみせた。 「今さらそんなカビ臭い『呪い』なんて流行(はや)るワケねえェだろう」 「だけど、マジなんだって。ほらァ、ヒロキだって怨んでいるヤツの一人や二人いるだろう」 「ふぅン、じゃァその怨んでいるヤツをこのチェキで盗撮すりゃぁ良いのか。盗撮されたターゲットは、って言うワケかよ?」  ヒロキはふざけ半分でチェキを手に取って試しに構えてファインダーを覗いてみた。 「バッ、バカか。ヒロキ! オレを殺す気かァ!」  賀茂は本気で怖がって両手で遮るように顔を隠した。  「はァ、マジかよ。ハッハハ、なにそんなにビビッてるんだよ。賀茂(カモ)ォ……?」  ヒロキは茶化すように嘲り笑った。 「おい、良いか。冗談でもオレにそのチェキを向けるなよ。間違って撮られたら最悪、死ぬかもしれないんだぞ」  賀茂は真顔で立ち上がり怒鳴った。よほど怖かったのか、少し顔が青褪めている。  周りの客たちも不審な顔でヒロキたちを見ていた。 「フフゥン、ビビりだな。お前は。小学生じゃねえんだからよ。『呪いのチェキ』だなんて。どうせどっかの都市伝説だろう?」  またヒロキはバカにするように鼻で笑った。賀茂も少し落ち着きを取り戻し、改めて席についた。 「あのなァ、ヒロキは知らないんだ。その『チェキの呪い』を」 「フフゥン、わかってるさ。口裂け女とか、トイレの花子さんやキサラギ駅なんかと一緒なんだろう。どっかの芸人が言ってる『信じるか。信じないかは、あなた次第ですって』ヤツさ。まァボクは信じないけどな」  ヒロキは不敵に微笑んだ。 「あのなァハローバイバイの関じゃねえよ」 「ハッハハ、しょうがないから、二週間くらいなら待ってやるよ。まァ、この『呪いのチェキ』が本物だったら借金は棒引きしてやるけどな」  北原ヒロキは最初、バカにしていたが渋々、『呪いのチェキ』を譲り受けることで借金を待つことにした。 「おい、ヒロキ。あんまりバカなことに使うなよ。冗談じゃないんだからな」  賀茂は親身になって忠告した。 「わかったよ。別に盗撮したからって死ぬワケじゃないだろう」  ヒロキは賀茂から譲り受けた『呪いのチェキ』を手に喫茶店を飛び出し街へ繰り出した。    
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