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呪われるチェキ
賀茂が北原ヒロキの部屋を訪れたのは、それから十日後の朝方だった。
朝っぱらからインターフォンが鳴り響き、ヤケに玄関口が騒がしい。
「ンうゥ……、うるさいな。なんだよ?」
北原ヒロキは眠い目を擦りながら玄関へ出た。
『おい、ヒロキ。起きろよ。全然、スマホが繫がらないだろう』
ドア越しに賀茂の怒鳴り声が聞こえた。
「はァ……、なんだよ。うるさいな」
ヒロキがドアを開けると、いきなり賀茂は血相を変えて怒鳴った。
「おい、いつまで寝てるんだよ」
「なんだ。賀茂かァ。今日は休みだろう?」
「知らないのか。昨日の夜にアイツが事故に遭ったぞ」
「えッ、アイツって?」
「清川だよ。美術教師の」
「なにィ、清川が?」
「そうだよ。昨日の深夜に歩道橋から転落して意識不明の重態らしいぜ」
「えェ、マジか?」
思わず笑みがこぼれた。すぐに寝室へ戻りスマホの電源をオンにした。
「やっぱりヒロキが、清川をあの『呪いのチェキ』で盗撮したのか?」
賀茂はヒロキのあとに続き、背中越しに訊いた。
「ああァ、まさか。マジで呪われるとは思わなかったなァ」
スマホで、ネットニュースを確認するとやはり清川の事故のニュースが流れていた。
昨夜、十二時過ぎに美浦小学校近くの歩道橋の上から足を滑らせて路面まで転落し、現在も意識不明の重態らしい。事故と事件の両面で捜査しているそうだ。
「フフゥン、良いザマだ。教師なんて向いてないんだよ。可愛い女の子だけ依怙贔屓しやがって」
ヒロキはほくそ笑んだ。
「おいヒロキ。悪いことは言わないから早くそのチェキを手放した方が良いぞ」
「え、なんでだよ?」
せっかく慣れてきたところだ。もう二、三人呪ってやりたい。
「あんまり調子に乗るなよ。今すぐ、捨てるか。誰かにそのチェキを譲るんだ」
「ああァン、大丈夫だよ。賀茂を盗撮したりしねえからさァ。安心しろよ」
「あのなァ。ヒロキはそのチェキの怖ろしさをわかってないんだよ。人を呪わばなんとかって言うだろう」
「なんだ。そりゃァ、怖ろしさって。じゃァもしスカイツリーに昇って、展望台からグルッて東京じゅうをこのチェキで撮ったら、東京じゅうのヤツが呪われるのか?」
ヒロキはチェキを手に取って減らず口を叩いた。
「えェ……?」
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