君と時を刻む

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「好、早く行くぞ~」 「待ってよ~大」 俺達はいわゆる幼馴染み。 俺は草苅大(くさかり だい)、今日で20歳になった。 そして、おっとりしたこの人は安堂好(あんどう このみ)、21で俺の1つ上。 好も今日が誕生日だ。 俺と好の出会いは俺達が幼稚園の時だった。隣の家に好の家族が引っ越ししてきたのがきっかけだった。それからずっと高校まで一緒で俺も好も社会人になって初めて別々になったが朝の出勤時間が同じ時は一緒に行っている。 でも最近なんか好の様子が違う。 何かを隠しているような気がする。 「ごめんね~お待たせ」 「遅刻するぞ。なんか最近遅いけど大丈夫か?」 「うん、大丈夫!」 「帰りも遅いっておじさんとおばさんが心配してたぞ?」 「そっか。でもこれからは早く帰れると思うから心配ないよ」 「そうか」 「それより、大。誕生日おめでとう!」 「さんきゅ。好もおめでとう」 「ありがとう!大、今日の約束忘れてないよね?」 「分かってるよ」 「じゃぁ、18時に駅前のいつものカフェでね!」 「分かった」 「じゃぁ、夜にね!」 そう言うと好はバス停に向かい、俺は電車に乗るため改札へと向かった。 まぁ、好が元気で仕事行ってるならいいけど、まさか、彼氏とか!? いや、そんな感じはなかったしな。 俺は今日の夜に好に告白すると決めていた。俺はずっと好が好きだった。 でも、俺の方が年下だしとずっと言えずにいたが俺もハタチになった。 俺は今から少し緊張しつつ電車へと乗り込んだ。   その日の夜。 約束していたカフェで好を待っていたら好の母親から俺の携帯に電話が来た。 好がケガをして病院にいるとの報せだった。階段から足を滑らせたらしい。頭を打ったり足を骨折したりとあるらしく数日は入院するとの事だった。  「俺、今から病院に行きます」 「ほんと?ごめんなさいね。好にも伝えておくわね」 「はい。じゃぁ」 俺は注文した珈琲を一気に飲んで急いで病院に向かった。  病院に着くと俺はすぐにおばさんから教えてもらっていた病室のドアをノックした。はい、と返事がしたのでドアを開けた。 「大。来てくれてありがと」 「そりゃ、ケガして入院って聞いたら来るよ。大丈夫か?」 「うん!」 と好は元気に返事をした。 「ありがとね、大君」 とおばさんが俺に頭をさげお礼を言った。その後おばさんはおじさんに電話してくると病室を出ていった。 ドアがバタンと閉まると、好は「ごめんね。カフェに行けなくて」と謝った。 「仕方ないよ」 「あ!早速だけど忘れないうちに渡しておくね」 そう言うと好は小さな青い紙袋を俺に渡した。 「誕生日おめでとう!」 「うん。さんきゅ」 「本当はちゃんとレストランとかで渡したかったんだけどね。あ!帰ったらみてね!」 と少し照れた感じで言った。 「分かった。俺も、これ‥‥」 俺は持っていたピンクの紙袋を好に渡した。 「誕生日おめでとう」 「大、ありがとう!」 「うん」 「私が退院したらレストランでお祝いしようね?」 「うん、分かったよ」 と俺が返事をしたあとコンコンとノックする音がした。 「入ってもいい?お邪魔かしら?」と おばさんが笑顔で少しイタズラっぽく聞いてきた。 「何言ってんの?いいよ~」と好は怒ったような恥ずかしいような口調で答えた。少しだけ3人で話しをした後、 「じゃぁ、俺は帰るよ。また明日来るよ。休みだし」 「うん。ありがとう、大」 「ま、結構元気そうで良かったよ」 「うん!大丈夫!」 とニコッと笑ってピースした。 いつもの好の笑顔を見て少しホッとした。 「じゃぁ、また明日な」 俺はそう言って病室を出ようとしたら 「大!また、また明日ね!」 「うん、明日」 そう言って俺は病室のドアを閉めた。 告白は好が元気になった時にしようと俺は家に帰った。 それから数時間後だった。 好が亡くなったとおばさんから連絡がきた。 それからはバタバタと慌ただしく過ぎた。葬儀やらなんやらをやったけれど俺はほぼ記憶がなかったが、皆が涙を流し泣いていた記憶だけがある。 俺以外の皆が‥‥ 好の死から一週間。 世の中は変わらずに動いている。 俺は明日まで休みをもらっていた。社長がいい人でゆっくり休みなさいと言ってくれたからだ。 「はぁ~」 俺はベッドから起きて窓を開けた。 まだ薄暗い。 ドサッと何かが落ちた音がした。 鞄だ。俺は鞄を元に戻そうと手をかけた時、中を見てハッとした。 好からの誕生日プレゼント‥‥ すっかり忘れていた。 俺がプレゼントした物は好の仏壇に置かれているのを昨日見た。 使う事がなかったのか、と思っていたがおばさんが「検査があるから少しの間だったけど大君から貰ったブレスレット病室で好が嬉しそうにしてたわ。ありがとうね」と涙を浮かべながら話してくれた。 俺は鞄から青い紙袋を取り出し中身を確認した。 そこには俺がずっと欲しかった腕時計と2つに折られた紙が入っていた。 俺はゆっくりとその紙をひらいた。 《大へ。 20歳の誕生日おめでとう! ハタチになったね。 今ね、病室でこれを書いてます。 お母さんが大に電話してくれてる間にね なんか、書かなきゃ!今だ!って思って書いてます。変だよね? 誕生日にごめんね。私、すごく楽しみにしてたんだよね。 でも退院したらお酒が美味しいお店行こうね! 私ね、やりたい事があって最近資格の勉強してたんだ。落ちたら恥ずかしいから受かったら言おうと思ってたんだ。 それとね、大がハタチになったら言おうと思ってた事があるの。 退院したらと思ったけど、ここに残しておくね。 私は大の事がずっと前から大好きです。               好より》 「お、俺だってずっと‥ずっと‥‥」 俺は好の死後、はじめて涙を流した。 あれから10年。 俺は今、職場近くで1人暮しをしている。今でも好を好きなまま変わらない。 きっとこれからもそうだろうと思う。 今日も俺の腕には好からのプレゼントが時を刻んでいる‥‥。
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