優しい鬼退治の話

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 ***  鬼が島の鬼の力は強大であり、数も多いと聴く。いくら桃太郎が巨漢の力自慢でも、一人で太刀打ちできるものではないだろう。桃太郎はまず仲間を集めることにしたのだった。  人間に飼われていながら、家の中で粗相をしたとして捨てられてしまった犬。  翼の色が少しばかりくすんでいたからと差別され、群から追い出された雉。  そして、人の奥さんを横取りしようとしたと誤解され、ボス猿に山から追い出された猿。  彼らはみんな、居場所を失い、生きる目標を見失っていた者達だった。そんな彼らに、桃太郎は声をかけたのである。 「僕も君達と同じ、はぐれ者さ。人間達に忌み嫌われ、村にいられなくなってしまった。でも、彼らを苦しめる鬼を退治すれば、きっと村の人々は僕を認めて仲間に入れてくれる。君達もそうさ。帝に認められるような素晴らしい力を持った動物たちを、褒め称えない者がいるはずがない」 「ほんと?」 「鬼を退治すれば、私達は認められるのですか?」 「もう俺ら、独りぼっちじゃなくなるんだな?」 「ああ、その通りさ」  桃太郎の言葉に、寂しい目をした犬が、雉が、猿が答える。  寂しさを分かち合うように、一人と三匹は出会い、共に鬼退治に向かうことを決意したのだった。  彼らはまず、鬼にいじめられているという漁村へ向かう。漁村の人々は巨漢の桃太郎に驚き、動物たちを連れた姿に警戒していたようだったが――鬼を退治しにきたと言うやいなや一気に態度を軟化させたのだった。 「あいつらは本当に恐ろしいんだ!金棒をぶん回して、近くを通る船を追い立てやがる。あんな乱暴で凶暴なやつら山賊だって見たことがねえ!」 「あいつらが鬼が島の海で漁をするようになってから、こっちは商売あがったりだよ!」 「体もでかく、肌の色も死人のようだ。髪の毛の色や目の色だって気持ち悪い色をしている。あれこそ、地獄から蘇った鬼にちげえねえ!」  彼らは口々に鬼の恐ろしさを桃太郎に語る。そして、桃太郎にこんなアドバイスをしたのである。 「奴らは恐ろしく狡賢く、真正面から戦っても太刀打ちできる相手じゃねえという話だ。とんでもない武器を持っているんだと。……だからやるならば、不意打ちで島のあちこちに爆薬をしかけて、島ごと吹っ飛ばちまうのがいいだろう」  確かに、直接戦うよりは確実かもしれない。ただ、桃太郎には躊躇いもあったのだった。鬼がどんな者達なのか、どんな思想を持っているのか。それをまったく知らない、話をすることもしないまま殺してしまうのが本当に正しいことなのだろうか?鬼とはいえ、一つの命に違いない。己の名誉のために鬼退治にきた桃太郎だったが、命を殺すことに躊躇いがないほど非情な性格ではないつもりだった。
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