盲聾

10/10
前へ
/10ページ
次へ
 次に目を覚ました時、小僧は真っ白な世界にいました。  上も下も右も左も、真っ白です。  山も海も空もありません。    代わりに、ゆらりと影一つ。  娘だけがいました。    親より先に死んだ者は、親不孝の罰として地獄に落ちる。  小僧は、ここが地獄だと理解しました。  小僧は娘の手を取り、謝罪の文字を書きました。    ――ぼくのせいで、ごめんなさい。    娘は笑顔で首を横に振り、返事を書きました。    ――私の世界は、貴方だけです。ずっと一緒にいられるこの場所は、私にとって天国です。    地獄には、何もありません。  景色がなければ、音もない。  完全な無の世界。    しかし、娘と小僧は、もともと無の世界を生きていました。  地獄も現実も、違いがありません。    ――お話、まだありますか?    ――もちろんです。  娘と小僧は、今日もお話を続けています。  誰にも干渉されない静けさの中で、今日も世界を紡いでいるのです。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加