盲聾

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 離れに座る娘は、たいそう美しい娘でした。  ツヤツヤの髪の毛に、きめ細やかな白い肌。  大切に育てられたことが見てとれます。  小僧が娘に見惚れていると、娘は手招きして小僧を側へと呼びました。   「こちらへ。もっとこちらへ」    小僧には聞こえません。  小僧は、娘の手招きだけを頼りに、娘の側へと座りました。  娘は手招きを止め、両手を伸ばして小僧の頬に触れました。  小僧が驚き、びくりと体を震わせましたが、娘は触るのを止めません。  頬から首へ、首から肩へ、肩から腕へ、腕から掌へ。  娘は小僧の掌を開かせて、掌に指で文字を書きます。    ――私は目が見えません。    小僧は驚き、娘を見ます。  先程頬を触られたのは、小僧の体の位置を確認していたのだと理解しました。  娘の目は開いています。  しかし、その黒い瞳に、世界が映っていないのです。    ――私はここを出たことがありません。    否、娘は世界と言うものを知らないのです。    ――私に、外のお話を聞かせてください。    小僧は、言葉を話せません。  返事は、娘と同じ。  小僧は娘の開いた掌に、指で字を書きました。    ――はい、ぼくでよければ。    小僧は、娘の目が見えないことを、不謹慎にも喜んでしまいました。  小僧は、醜い容姿を持っていました。  自分の顔を見られないことは、小僧にとって幸せなことでした。
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