盲聾

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 ――今日のお話、とても面白かったです。    にこにことした笑顔を向ける娘を、小僧は不思議に思いました。  大きな屋敷に住んでいる娘です、世間知らずではあるのでしょう。  しかし、晴れも雨も、娘は知らなかったのです。    理由はすぐに分かりました。  離れは、窓一つなく、外から完全に隔離されています。  出で入り口の扉も二重三重で、一枚開いたとて、外は見えません。    ――貴女は、いつからここにいるのですか?    小僧の問いに、娘はにっこりと答えました。    ――ずっとです。    ――ずっと?    ――はい。生まれてから、ずっと。    娘の家は裕福です。  温かい食事に、温かいお風呂。  何でも手に入ります。  しかし、娘が手に入る物は、全てこの部屋の中にしかありません。  山も海も空も、娘は手に入れることができません。    ――だから、貴方のお話は、いつも新鮮で楽しいです。    小僧は、貧しく、醜く、耳が聞こえない自分を不幸だと思っていました。  しかし、小僧は自分の行きたいところで行くことができます。  自分の見たいものを見ることができます。    小僧は、娘のことをもっと知りたくなりました。  目が見えない世界とは、どんな世界なのだろう。  離れの中の世界とは、どんな世界なのだろう。    ――貴女のお話も、聞いてみたいです。    小僧の言葉に娘は口をぽかんと開け、しかし嬉しそうに、小僧の手を取りました。
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