盲聾

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 娘の話は、光のない世界の話でした。  一人ぼっちの離れの中、扉が開閉する音と機織り機の音だけが響く世界。  耳が聞こえるのに、耳を使わない世界。  小僧は、娘が自分と同じ世界を、自分よりも静かな世界を生きていると知って、娘との距離が縮まった気がしました。    春が来て。  夏が来て。  秋が来て。  冬が来て。  また春が来て。    ――今日は、遠い遠い海の話をします。    ――楽しみです。    小僧にとって幸いだったのは、何でも屋としてたくさんの景色を見ていたことです。  耳が聞こえないからこそ、他の者が断る過酷な仕事が回ってきて、結果他の者よりたくさんの世界を見てきました。  一年の間、話が尽きることはありませんでした。  楽しい時間が続いていました。    しかし、楽しい時間は唐突に終わります。
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