盲聾

「娘よ！　喜べ！　縁談が決まったぞ！」

　屋敷の主が、嬉しそうな表情で離れにやってきました。
　娘は、美しい容姿を持っていましたが、目が見えません。
　目が見えない娘は、料理も掃除もできず、誰も欲しがりませんでした。

「なんと、商家の跡継ぎだ！　お前に一目惚れをしたようでな。目が見えぬことも伝えたが、料理も掃除も使用人が行うため、お前は家にいて、子を成してくれるだけでいいそうだ！　目の見えぬお前に、こんないい縁談はもう二度とないぞ！」

　商家では、容姿も武器となります。
　商家の跡継ぎは、娘の美しい容姿という遺伝子を欲したのです。

　娘は断る術を持ちません。
　ただでさえ、屋敷の主が存在を隠そうとするほどの、屋敷の足手まとい。
　娘は無言で、首を縦に振りました。

「さあ、急いで着物を用意せねばな！」

　屋敷の主は、上機嫌で離れを出ていき、娘と小僧だけが残されました。