盲聾

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 事情を呑み込めない小僧に、娘は優しく、掌に文字を書いて事情を説明しました。  一文字一文字書かれるたびに、小僧の表情は険しくなっていきました。    娘の書く文字は、楽しい時間の終わりを示していました。    ――貴女は、それでいいのですか?    小僧の言葉に、娘は無理をした笑みを浮かべました。    ――私のような者をもらっていただけるのです。感謝しかありません。    小僧は考えました。  小僧の顔は、醜いです。  美しい娘には、つりあいません。  しかし、娘は目が見えません。  自分はずるいやつだと、小僧は自分の顔を呪いました。    ――ぼくと、逃げませんか?    上機嫌で離れを後にした屋敷の主は、離れの扉を閉めることを忘れていました。  小僧の目と娘の耳があれば、屋敷から逃げ出すことができます。  娘は驚き、考え、小僧の手をぎゅっと握りました。   「はい」    小僧は、娘の口の動きで娘の意思を読み取りました。  娘と小僧は、相思相愛であったのです。  小僧は娘を背負います。  小僧の背中に、布のような軽さが押し付けられます。  裸足で離れを出て、屋敷の門に向って大急ぎで走ります。
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