盲聾

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 目を頼りに辺りをきょろきょろと見渡すと、小僧と使用人との目が合いました。   「あ、お嬢様が!」    小僧には、使用人の声は聞こえません。  娘には、使用人の声が聞こえます。  娘が小僧の背中を掴む力が強くなり、小僧はさらに急いで走りました。    門の近くの木をよじ登り、屋敷の囲いを飛び越えて、遠くへ遠くへ走ります。    娘は追われる恐怖と、離れの外という見たことのない世界への感動を、全身で感じていました。    ――きれい。    娘は小僧の背中に、文字を書きました。    娘は、目が見えません。
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