3.目には目を

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『一年棟の校舎裏で待っている。 二年一組 志堂一星』 「……これは。以前にもあったのか?」 「たまに。今日は無視して帰ろうと思ってたら、昇降口まで来て、いきなりこっちだと引っ張っていかれたんです。もちろん、先輩がいるなんて思ってなかったけど」  昇降口で騒ぎにしたくないからと、とりあえず一緒に行ったのはよくなかった。蹴り飛ばしてでも、さっさと帰ればよかった。  志堂が痛ましそうにぼくの顔を見る。長くて綺麗な指が、ぼくの腫れた頬に触れるのをためらって、代わりに耳元に触れる。 「可哀想に、腫れている。すぐに手当てをした方がいい」 「ああ、家に帰ったら冷やしますからご心配なく」  これは流石に友永にばれずにすむのだろうか、と思わず眉を顰めた。 「痛むのか?」 「あ、いえ。この顔を見たら、家の者が心配するなと思って」 「それはそうだ。……うちで少し、冷やしていったら?」 「え? いや、大丈夫です。たいしたことないし」 「そんなことはないだろう。俺は一人暮らしだし、学校からは結構近いから」  真剣に心配してくれる瞳を無視することが出来ずに、思わず頷いてしまった。  高校の正門の通りの前には、閑静な住宅街があった。その中に、志堂の住む真新しい八階建てのマンションが建っている。一階のエントランスには管理人が常駐し、最上階はワンフロアに二軒分しか住居部分がない。明らかに家族用だと思う。エレベーターが最上階で止まる。  玄関を志堂が開けた途端に、レモンの香りがふわりと漂った。  案内されたリビングでは一面の窓から広々とした空が見え、下には整備された公園や住宅が広がっていた。思わず、感嘆のため息が出る。室内は白と淡いグリーンの二色で統一されて落ち着いた雰囲気だ。ソファーの革だけが青みの強いターコイズブルーで、座るとふかりと体が沈んでしまう。志堂がトレイに二人分のアイスティーを運んでくる。 「どうして先輩は一人暮らしをしてるんですか? こんなに広いのに、他には誰もいないの?」 「ああ、一人だけだ。ここは学校に近いから、高校から大学までの間は使おうと思って」  高校の隣には付属の大学がある。毎日通うなら、徒歩十分ほどの立地は悪くなかった。
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