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「お前が、五歳の時の話だからな。……おいで、千尋兄さんのところに行くよ」
ぼくたちは一枚の写真を持って、アルファである上の兄の部屋に向かった。
◆◆◆
「あ、ねえ、ちょっと待って。これもお願い」
プラスチックのゴミ箱を抱えて裏庭に向かって歩いていた。
涼やかな声に呼び止められて振り向けば、長身の男子がにこりと微笑んでいる。ぎゃっ! と叫びそうになるのを必死で抑えた。
渡り廊下に立つ彼の胸には、上級生のネクタイが輝いている。ぼくは急いで駆け寄った。
四角いゴミ箱を差し出すと、長い指が拾ったばかりのゴミを、ひょいと入れる。
「悪いね。ありがとう」
「い、いえ、別に」
端正な顔に切れ長の美しい瞳。
ドキドキと胸が鳴りそうになるのを抑えて、ぺこりと頭を下げた。
大丈夫、大丈夫。近づいたってそうそうわかることはないはずなんだ。まともに会ったこともないんだし。でも、あまり近づかないようにと思って踵を返した。
「あっ! ちょっと、待っ……」
「いたいた! いっせーい! 一星!」
視線が離れた途端に、全力で走り始める。
ぼくは、彼から慌てて離れて、校舎裏のゴミ捨て場まできた。ハアハア言いながら息を整える。大きなゴミ箱の中に、四角いゴミ箱の中身を入れようとすれば、手に持っていたゴミ箱をひょいと持ちあげられる。
「わっ!」
「大丈夫ですか、千晴様」
「……ああ、ともなが」
ぼくは、ほっと息をついた。友永は従者であり幼馴染だ。彼は執事の安井の三男で、ぼくと同い年だからと幼い時から側にいる。ぼくの分まで手早くゴミを捨てて、さっと距離を近づけた。
「首尾はいかがです?」
「さっき、ここに来る前に会った」
「お話は?」
「するわけないじゃないか。声をかけられて、ここにゴミを受け取っただけ」
ふてくされてゴミ箱を指さすぼくに、友永が眉を顰める。
「やはり同じ学年じゃないのが痛いですね。委員会活動にでも入ってみますか?」
「冗談じゃないよ。いまさら生徒会になんか入れるもんか!」
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