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2.近づく距離
「日直の須崎と瀬戸! おーい、須崎ちはる!」
「あ! はい!」
「悪いな、日直の二人は荷物運びを手伝ってくれ」
放課後、ぼくたちは担任に言われた本を図書準備室に運んだ。ぼくの本名は須崎ではないので、いまだに慣れず、すぐに答えられない。変装になるわけでもないが、度のろくに入っていない眼鏡も何やら違和感がある。もたもたしていると、もう一人の日直の瀬戸が、さっと多めに本を持ってくれた。
「あ、ありがと」
「須崎、ほっそいもんな。俺は元々体がデカいから、気にすんな」
にかっと笑う瀬戸はレスリング部だ。すぐ後ろの席で、転校した時から色々教えてくれる。高校での転校は珍しいこともあって、皆が親切だった。ぼくは転校から一か月が経って、ようやく学校生活がスムーズに送れるようになっていた。
「須崎もこの一か月、大変だっただろ? 家の都合とはいえ、高校で転校って珍しいよな」
「うん、でも瀬戸のおかげでずいぶん早く学校に慣れたんだ。いつも助けてくれてありがとう」
「え? あ、いや。お、俺で良ければいつでも言ってくれ」
「うん! 頼りにしてるね」
嬉しくなって笑うと、瀬戸の顔が赤くなる。瀬戸は本当にいいやつだと思う。二人で図書準備室に入ろうとした時だ。隣の部屋の扉が開いた。
えっ、と思った。志堂一星が立っている。
「あれ? 君は……」
「っす! 副会長」
「ああ、瀬戸君。大会優勝おめでとう。次はインハイだね」
ぼくは、さりげなく体の大きな瀬戸の影になるように移動した。瀬戸が彼と親し気に話しているから、ちょうどいい。近くに寄ると、なぜか動悸がするから困る。
「瀬戸、ごめん。ぼく、先に行ってるね」
お先に、とだけ言って、ぼくは図書準備室に入った。
(……準備室の隣が生徒会室だなんて知らなかった)
図書準備室では頼まれた本を戻すだけだから、作業はすぐに終わる。しかも、すぐに瀬戸が入ってきて、高い場所にもあっという間に本を戻してくれた。さっき廊下で聞いた話を思い出して、ぼくは瀬戸におめでとうと言った。
「瀬戸、すごいね。インターハイ出場なんて!」
「サンキュ! 俺、これから部活なんだ。悪いけど、先に教室に戻るわ」
「うん! 頑張ってね! 応援してる」
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