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◇◇◇
第二性を持つ者にとって、医師の下した判断に従うことは義務だ。よって拒否することは許されない。
案内された場所は病院からそう遠くない小さな建物だった。
「待ってましたよ。こちらへどうぞ」
来所した俺を出迎えたのは、俺より二回り以上体の大きい、温和そうな顔つきの年上の男性だった。
少し躊躇って身を固くした後、ごくりと喉を鳴らして土間で靴を脱ぎ、スリッパを履く。
建物の中は診療所か、もしくは学校の保健室のような雰囲気で、ダイナミクス向けのさまざまな啓発ポスターと一緒に「ダイナミクスプロフェッショナルコーチ認定証」「ダイナミクス心理カウンセラー」などたくさんの認定状が額に入れられ飾られていた。
他に人がいる様子はなく、この建物にいるのはこの男性だけらしい。
「荷物はこちらで預かりますね」
言われるままバッグを手渡すと、「携帯電話もこちらで預かります」と言われた。
「携帯も……?」
「はい」
おずおずとポケットから携帯電話を取り出して、先生の手に預けようとした瞬間、俺と先生の間を割って入るように通知音が鳴り響いた。誰かからのメッセージの通知。内容を確認しなければと思って手を引っ込めようとすると、先生が俺の手首を掴んでそれを制した。
「時間は有限ですから」
「あ、あの、確認だけ……」
「急用なら電話が掛かってくるはずでしょう?メッセージなら、確認は後でも問題ないはずですよ」
そう言って先生はてきぱきと荷物を鍵付きのロッカーに納め、奥の部屋へ俺を案内した。
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