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通されたのは想像していたよりも小さな部屋だった。小さなデスクとスツール、そしてリクライニングチェア。その傍らには医療機材らしき機械が置かれている。部屋の中央はカーテンで仕切られていて奥は見えない。
「こちらの椅子に座ってください」
差し示されたのは奥側に設置されたリクライニングチェアだった。先生は扉を閉め、内鍵を掛けて入り口側のスツールに腰掛ける。
「まずは自己紹介してもらいましょうか。名前と年齢を教えてください」
「し、椎名遥人、24歳、です……」
「緊張してますか?」
「は、はい……」
「体の力を抜いて、楽にしてくださいね」
「はい……」
そんなふうに言われても、そう簡単に楽にはなれない。知らない場所、知らない空気、初対面の相手。体を固くしたまま頷く俺を見て、先生は苦笑いを浮かべた。
「そんなに緊張してるのは、僕がDomだからかな」
心の内でやっぱり、と独りごちる。一目見たときからなんとなくそんな気がしていたのだ。
「Domが怖い?」
「……っ、いいえ……そういうわけじゃ……」
Domが怖いわけじゃない。怖いのは、Domによって自分の本性だ暴かれてしまうことだ。
「こういうところに来るのは初めて?」
「……はい」
「安心して。椎名さんが嫌がるようなことはしませんから。それに、同じダイナミクスだからこそわかってあげられることも多いと思うんです。担当医の先生だって、結局はNormalですから……。いくらダイナミクスに関する知識があったって、Normalには本質的な部分で僕たちの気持ちを理解することはできません。その点、僕なら君の気持ちを少しは汲んであげられるし、Dom目線のアドバイスだってしてあげられる」
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