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思えば、柊二さん以外のDomとこうして二人きりで話す機会など今までなかった。DomとSubで立場は違えど同じダイナミクス同士ならば──少しは、俺の気持ちも理解してもらえるのだろうか。
恐る恐る先生の顔を窺う。
「ここで話すこと、行われることは一切外部に漏れない私たち二人だけの秘密です。だから安心してなんでも話してくださいね」
そう言って先生はにこにこと人の良い顔で微笑む。
「椎名さんのこと、下の名前で呼んでもいいですか?」
「え……」
遥人くん、と呼びかけられて戸惑った声を上げる。
恐らく患者との心理的距離を詰めるためのコミュニケーションの一環なのだろう。ならば口に出すべき答えは決まっている。
「は、い……」
元から肯首する以外の選択肢は与えられていないし、要求に抗えるほどの関係性でもない。慣れない相手が自分の内側に侵入してくる不快感。それでも求められていた答えを口にすると、男は唇に乗せた笑みを深くする。
「先に気持ちがリラックスするガスを吸いましょうか。緊張が解けますよ」
先生が壁際にあった機械を引き出し、機械から伸びた管に透明のマスクを繋げる。主電源を入れてつまみを弄ると、先生はマスクを渡してきて口元に当てるよう俺に促した。
「ゆっくり吸って……吐いて」
言われるまま息を吸って吐く。深呼吸しながらほのかに甘い香りのするガスを吸っていると、少しずつ手足の先が温かく、重くなってきた。
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