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当時、別のクラスのある男子生徒がSubなのではないかと噂が立った。理由は一人称が「僕」だからという骨董無稽な言い掛かり。けれどその噂はたちまち学年中に広まり、その生徒が義務検査の結果証明書を学年掲示板に貼り出すまで収まらなかった。Subであることをひた隠しにしている自分からすれば、そうやって疑いをかけられること自体が酷く恐ろしく、周りに合わせるようにして、不自然に見えないように注意を払いながらこっそりと一人称を変えた。母は一人称の変わった息子に「良かった。Subでもちゃんと普通の男の子なのね」と言った。
「遥人くんは、お父さんとはあまり話さなかったのかな?」
「父は、単身赴任で家にいなかったから……」
「そっか。周りに相談できる人はいなかった?」
先生の問いに首を横に振る。
「……俺には、柊二さんが……」
「シュウジさんって、そのずっとプレイしてるDomの人?」
うっかり柊二さんの名前を出してしまったことに今更気付いて動揺する。場の空気だろうか、それとも先生の雰囲気なのだろうか、今日の自分は話さなくていいことまで口にしている気がする。
「あ、あの」
「シュウジさんはどんな人?先生に教えてくれないかな」
話していいのだろうか、と逡巡し、ちらりと先生に目を向ければ、こちらを優しげに見つめる瞳とかち合う。
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