81人が本棚に入れています
本棚に追加
今まで柊二さんのことを誰か他の人に話したことは一度もない。せいぜい担当医が俺にプレイメイトがいることを知っているくらいで、友人にも、家族にすら、俺と柊二さんの関係を話したことはなかった。
「大丈夫。何を言っても秘密にするから」
そう言って先生は俺の口元へ手を伸ばし、ガス管に繋がっていたマスクをそっと外す。いつの間にか体に入っていた力は完全に抜けきっていて、座っている体勢を保つのが難しく、椅子をぴたりと寄せた先生にしなだれかかる。
頭を撫でられて、頭の中でとろりと蜜が垂れるような感覚に陥る。気付けば自分から口を開いていた。
「しゅ……じさんは……、三歳年上で、ずっと付き合ってる人が、いて……」
先生は急かす様子もなく、ただ静かに相槌を打つ。
「背が高くて、頭が良くて、」
「それから?」
「と、ときどきこわいときもあるけど、やさしくて……」
「うん」
「学生のときは、勉強も教えてくれました。進路の相談にも、柊二さんが乗ってくれて……」
「そうなんだ。どんなアドバイスをもらったの?」
「大人の言うことなんか聞かなくていい、って……」
「……。シュウジさんと初めてした時はどうだった?」
「……そのときのことはあんまり覚えてないんです」
「覚えてない?どうして?」
「おれ、そのとき、ほとんど意識がなかったから……」
「意識がない?」
最初のコメントを投稿しよう!