#5 秘密

32/33
前へ
/136ページ
次へ
「ずっと好きだったの?」  茫然としながらはらはらと涙をこぼす俺の頬を先生の指が拭う。 「もうあうの、や、やめようって、なんども、おもって……でも」 「できなかった?」  あの日から、何度も、何度も。数え切れないくらい何度も諦めようとした。柊二さんからの連絡に返信しながら、これで最後にすると毎回決心して待ち合わせ場所へ向かった。もうやめる。これで終わりにする。もう会わない。そう思うのに、会ってしまったら「会えて嬉しい」以外何も考えられなくなって結局柊二さんに溺れた。別れを切り出せないまま次の約束を取り付けられて、その繰り返しで気付いたらここまで来てしまっていた。 「せん、せ……」 「なんだい?」 「お、おなほ、は、しようきげん、ありますか……」  俺の問いに先生の動きが止まる。  ずっと気になっていた。柊二さんから時折連れていかれるあの店で、Domが連れているSubは誰もが美しく、若かった。まるで歳を取ったSubなど存在しないかのように。 「お、おれっ、いつまでっ、しゅーじさんと、いっしょにいられますか。いいこにしてたら、ずっといっしょにいてもらえますか」 「……遥人くん」 「せんせい、おれ、しぬのより、しゅうじさんにすてられるほうが、こわい……」  好きだから側に居たくて、好きだから離れたかった。  二律背反の感情を抱えた心はとうの昔にぐちゃぐちゃで、前にも後ろにも進めないままでいる。 「そんなにシュウジさんが好き?」 「すき……しゅうじさんがすき……」  ぽろぽろと涙をこぼす俺を見下ろして、先生がぽつりと呟く。 「君にはもっと、君を大切にして愛してくれるDomが他にいると思うけどな」 「っあ、あいって、なん、ですか……?どうしたら、あいしてもらえますか……?」  涙で歪んだ視界越しに、先生が可哀想なものを見る目で笑うのが見える。 「今から教えてあげるよ」
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加