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「ずっと好きだったの?」
茫然としながらはらはらと涙をこぼす俺の頬を先生の指が拭う。
「もうあうの、や、やめようって、なんども、おもって……でも」
「できなかった?」
あの日から、何度も、何度も。数え切れないくらい何度も諦めようとした。柊二さんからの連絡に返信しながら、これで最後にすると毎回決心して待ち合わせ場所へ向かった。もうやめる。これで終わりにする。もう会わない。そう思うのに、会ってしまったら「会えて嬉しい」以外何も考えられなくなって結局柊二さんに溺れた。別れを切り出せないまま次の約束を取り付けられて、その繰り返しで気付いたらここまで来てしまっていた。
「せん、せ……」
「なんだい?」
「お、おなほ、は、しようきげん、ありますか……」
俺の問いに先生の動きが止まる。
ずっと気になっていた。柊二さんから時折連れていかれるあの店で、Domが連れているSubは誰もが美しく、若かった。まるで歳を取ったSubなど存在しないかのように。
「お、おれっ、いつまでっ、しゅーじさんと、いっしょにいられますか。いいこにしてたら、ずっといっしょにいてもらえますか」
「……遥人くん」
「せんせい、おれ、しぬのより、しゅうじさんにすてられるほうが、こわい……」
好きだから側に居たくて、好きだから離れたかった。
二律背反の感情を抱えた心はとうの昔にぐちゃぐちゃで、前にも後ろにも進めないままでいる。
「そんなにシュウジさんが好き?」
「すき……しゅうじさんがすき……」
ぽろぽろと涙をこぼす俺を見下ろして、先生がぽつりと呟く。
「君にはもっと、君を大切にして愛してくれるDomが他にいると思うけどな」
「っあ、あいって、なん、ですか……?どうしたら、あいしてもらえますか……?」
涙で歪んだ視界越しに、先生が可哀想なものを見る目で笑うのが見える。
「今から教えてあげるよ」
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