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◇◇◇
「遥人は僕の運命なんだ。僕のSubは遥人だけだよ」
「……うん」
プレイ後の眠気にうとうとと瞬きしながら答える。プレイして、一緒にシャワーを浴びて、髪を乾かしてもらって。毎回、いつも通りの手順。いつも通りの言葉。
この人はいつも俺だけだと言うけれど、だからと言って俺に首輪を贈ってくれたことはない。
だからきっとこれは俺をサブドロップに陥らせないための義務的なアフターケアなのだろう。
でも、それでもプレイ外で触れてもらえることに、俺は嬉しくなってしまう。
来た時と同じようにスーツを着込んだ彼を、玄関で見送る。
「じゃあまた二週間後に。それまでちゃんと待てできるよね?」
「はい……」
物足りない気持ちになってそっと顔を上げて見つめると、ちゅ、と額にキスが落ちてきた。
俺は彼の命令一つで縛られるのに、Subの俺からはDomを縛り付けることができない。
Domは生涯のパートナーの証として自分のSubに首輪を贈る。けれどSubからDomへ贈れるものは何も無い。SubがDomを自分のものだと証明することは出来ない。Subに出来るのは、ただ自分のDomを信じ従属することだけだ。
「可愛いなぁ」
そう言って俺に触れる左手の薬指には指輪が輝いている。愛し合う二人が身につけるそれは、理性的な、人間の、愛のカタチだ。獣の本能で彼に惹かれている俺とは違う。
扉が閉まって、その向こう側から電話をするあの人の声が聞こえる。
“もう終わったから、今から帰るよ”
俺に掛ける声とはまた違う優しい声に、俺はぎゅう、と胸元を握りしめる。
「───Subになんて、生まれたくなかったな」
神様が本当に存在するなら、どうしてこの世にこんな生き物を生み出したのだろう。
どうして俺をSubにしたのだろう。
胸元に置いた手に、冷たい雫が落ちる。
どうして。
どうして、俺の運命の人は俺だけのものじゃないんだろう。
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