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「伝えどおりの門柱だが、たいそう朽ちているな、念力の衰えか、それとも、念力がいらぬほど、妖力が満ちたということか?…」
朽ちかけた門柱をあとに、ガオは、参道を一気に駆け上った。半時も登ると、木々の茂みが薄くなり、突然、杉の巨木がたち現れた。
「これも、伝えどおりの、見事な杉だ」
ガオは、やおら背の長尺を抜き放ち、巨木の根元に突きさした。
「ヤッ!」
両手首を組み合わせ、十文字の印を切る。すると、剣は、たちまち孼(ひこばえ)に変り、巨木の根元で空を仰いだ。
「宵待ち草、オレを待て…」
この忍術が、なんぴとにも解けぬように…ガオは、いっとき、心の中で念じた。
ガオは、サルを探した。なぜか?
東島の桟橋で、ギダルが拉致し、結び目をといて覚醒させた結繩人が、
「このところ、西島の杜が、ざわついているようじゃ」
といったと、聞いたからである。
「ざわついている?」
ガオは気になった。
「どんな風にだ?」
「覚めた結繩人によるとな」
ギダルが説明した。
「聖域には禽獣がいて、生業として、己の領域や、食い物を巡って、折に触れ、ざわつくのも常のことだが、いつのころからか、杜の下、杜の上、ときには杜の西側、杜の東側、という風に、全体でざわついていた杜が、いくつかに分かれて、自然の摂理にそぐわない、不気味な勢力間の争いに、杜自体が巻き込まれてしまったのではないか、と恐れるほど、変わってしまったらしい」
「フム、サルだな」
ガオがいった。
「ン、ワシも、そうおもう」
ギダルも同意した。
「大がかりな徒党を組めるのも、サルしかおらんからな、よし、試してみるか」
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