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そしていま、ガオは、サルを探して、杜の下に深く分け入ったのである。
ガオには、勝算があった。
対馬の先人が伝えるところによれば、西島の主は妖術を操る物の怪だが、対馬の主は、呪術を信奉する霊能の民である。
物の怪は、妖術を操り、万物に成りすますことはできるが、その霊魂に近づくことはできない。
一方、霊能の民は、万物になりすますことはできないが、呪術を信奉することにより、その霊魂と交わり、民の心と通いあい、互いに働きかけることができる。
とどのつまりは、西島を乗っ取った物の怪と、杜に潜む霊魂との戦いなのである。
「ということは、だな…」
ガオは、茂みのなかを這いまわりながら、にんまりとした。
「物の怪の味方は、杜という器、だけだが、霊能の民には、杜という器と、そこに潜む霊魂という、二つの味方がある、多勢に無勢、オレたちが有利なのは、自明の理だな」
さて、杜の下方、最深部に踏み込んだガオは、なにものかに囲まれていた。
「ヌヌッ…」
目の高さに繁茂したクマザサが、ざわざわと揺れ動いた。
「物の怪か?…」
霊視力で念じた。すると、三つの霊が感知できた。すかさず、透視力で手繰り寄せた。
「サルだな…」
念じると、三頭が見えてきた。盛んに言い争っている。取っ組み合い寸前の緊張感が、ただよってくる。
一頭がいった。
「ここの主は、巫女ではないぞ、おれたちだぞ」
もう一頭が、それに呼応した。
「そのとおり、おまえが、おかしいのだ!」
おかしいといわれた三頭目が、強く反論した。
「なにを、いうか!巫女は、妖術使いだ、さからえないぞ!」
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