記念すべき大仕事

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「まあ、簡単に言うと杖の製造にエナ石が使われていないみたいだ」 ディオンさんはそう重々しく口を開いた。 え、そんなわけないだろ? 俺を含め、他の2人もそんな馬鹿な、という顔をしている。 しかし、ディオンさんが冗談を言っているようには甚だ見えない。 「まさか……。だって!エナ石がないと、魔力自体使用できませんよね?え、私が知らないうちにそんなことになってるんですか?新技術ですか?」 「うーん、それがよく分からないんだよね。でも、品質管理課が何回調べてもエナ石の成分が全く検出されないんだ」 ジネットさんは困惑し、次々に疑問を投げつけた。 それに対して、ディオンさんも困った顔で首をすくめている。 それもそのはず。 これが明らかにおかしいというのは、新人の俺ですら分かるくらいだ。 いや、これくらいなら杖を使う人間、誰でも分かるだろう。 そもそも杖というものは、木、石、鉄や銅といった極普通の自然材料から本体が作られている。 そこに、先程から会話にあがっているエナ石を封じ込めることで初めて、杖としての機能を持つことができる。 エナ石には、俺たちの魔力を杖に伝え、力を増強させるという大きな役割がある。 つまり、杖の核なのだ。 むしろこれがないと我々から杖への魔力の伝達はできない、とまで今まで考えられてきた。 いや、今でも一般的に、そう考えられている。 「そんなこと出来たら、今頃大ニュースになってませんか?」 俺の素朴な疑問に皆が賛同し、うんうんと頷く。 そうなのだ。 世間が、こんな世紀の大発見を見逃すようなことは、きっとない。 それくらいの事態である。 「実はまだこの疑惑、あるいは事実を知っているのは管理局でもひと握りなんだ。安易に公表すると、とんだ大騒ぎになるしね」 「あ、そうなんですね」 「そういう意味で、これは極秘の大きな仕事なんだ。クロードくん、さすがの視点だね」 なるほど。 これが事実かどうかはさておき、この事が知れ渡ると、業界全体に大きな影響を与えるのは確かだ。 それが良いのか、悪いのかはまだ断定できないが。 「まあ、導入はこんな感じだね」 ディオンさんはそう言って、1度椅子に座る。 そしてまた、別の資料を配布する。 「はい、じゃあ次はこの実態を暴くための案を練ろうかな」 彼は筆をとり、濃紺のインクに筆先をとぷりと浸した。
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