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新米局員、クロード
「あっ……」
ドアを開けると、すぐ目の前に長身の男が現れた。
長い足を組んで壁にもたれかかり、首だけをこちらに向けている。
俺の存在を一目確認すると、彼は組んだ足を解いて、口を開いた。
「あぁ、君が新入り君?」
その問に静かに頷くと、彼は壁から背を離して両手を広げ、ようこそ、と歓迎の意を示してくれた。
さっきまで固かった彼の表情はにこやかな笑みに変わって、俺の心拍数も段々落ち着いてくる。
「生憎今、局長は手が離せなくてさ。代わりにお出迎えさせてもらったんだ」
だから、少しあっちで待っててねと彼は奥の部屋を指さし、さっとエスコートしてくれた。
俺は黙ってついて行き、促されたソファに座る。
彼は俺がソファに座ったことを確認すると、肩につかないくらいの髪をなびかせ、じゃあまたね、と颯爽と部屋の外へ消えていった。
なんというか……、全てがスマートだ。
俺は革張りのソファに浅く腰掛け、居心地の悪さを誤魔化すため全体をキョロキョロ見渡し、室内の観察を始めた。
パッと見る限り、ここは来客用の応接室といったところだろう。
膝の前には立派な一枚板のローテーブルがあり、種類の分からないスタイリッシュな葉っぱがガラスの花瓶にささっている。
さらにその先には今俺が座しているものと対になるソファが置いてあった。
窓辺には抽象的概念を立体にしたであろう謎オブジェが等間隔に3つ、鎮座している。
職場にこんな小洒落た部屋あるんだーと感心していると、外から誰かの足音が聞こえてきた。
足音の主はヒールを履いているのか木と木が鋭くぶつかり、廊下に反響している。
しばらくじっと扉の方を見ていると、黒ワンピースの女性がスタスタと入室してきた。
俺の前まで来ると背筋を伸ばし、ぱっちりと視線を合わせる。
「お待たせして、ごめんなさい。私、魔杖管理局の局長、レリアです。あなたがクロードくんね!」
「あ、本日からお世話になります、クロードです」
彼女に握手を求められ、俺は慌てて立ち上がって両手を差し出した。
握る手に若干力が入り、汗ばむ。
「ありがとう。気楽にね、いきましょう!」
レリア局長は俺の緊張している様子を察してか、明るく声をかけてくれた。
ありがたい……。そして、情けない。
レリア局長が座ったのを合図に、俺もソファに座り直す。
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