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 スパイ【spy】 ____ひそかに相手の陣営に入り込み、相手方の機密情報を探り出すこと。また、それをする者。間諜(かんちょう)。密偵。 (大辞林)    歴史上、この世界には様々なスパイが存在した。  夜の闇に紛れ、あるいは都会の雑踏に身を隠し、決して姿を見せることなく暗躍し、時に命を張り、命を懸ける。  ある者は普通の平社員のように、ある者は優しい青年に、ある者は地味な目立たない女性に。  あるいは年齢を偽り、性別を偽り、仮面をかぶって日々を生き抜く。  表の彼らは一見何の苦労もないようで、はたまた友達作りや恋の悩みに奮闘しているようで、けれどひとたび仕事となれば、一般人は関わるどころか存在を知ることも許されない、裏の顔が姿を見せる。  そしてその仮面の下に、誰かが気づくことは。  【スパイは正体を知られてはならない】。  それは鉄則であり、常識であり、掟。  今日町ですれ違ったスマホに夢中の学生が、勤め先の明るいムードメーカーが、学校の厳しい先生が、よく道で挨拶してくれるおばあさんが、ひょっとしたら家族の誰かが、もしかしたらスパイである可能性だってゼロではない。そこに共通点はなく……、  ただ、たった一つ。スパイというのは、目立ってはいけない。正体を知られるのも、相手方にほんのかすかな証拠を掴まれることすら絶対禁止なのだ。  禁止を通り越して、禁忌と言ってもいい。____の、だが。 「ミス(セブン)、私は一人で仕事できるから今すぐバディやめて」 「ミス(シックス)のせいでしょ。相性最悪とは思ってたけど、こんなことになるならやっぱり組まなきゃよかったぁ~」  ここにそんな禁忌を破り、監視していた密輸取引中の人間に見つかって、拳銃を構える四十人近いボディガードに囲まれているスパイが、約二名。  しかも武器装備かつ体格もよく、凄まじい圧と殺気を身にまとった男性ボディガードに対して……取り囲まれたのはスパイスーツを身に着けてはいるが見たところ丸腰の、しかも十三・四歳ほどの少女だった。
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