朝日

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プシュー ドン まだ空が濃い青色になるほど朝早くに 私は電車に乗った。 いつもより全然混んでいない車内。座席には所々人と人との間が広い所がある。私は、乗務員室から1番近いところかつ真ん中の席に座る。 座席にもたれ、上を向き、ため息をつき、ぼそっと呟いた。 「サイキン、ウマクイッテナイナァ…。」 本当にうまくいっていない。 まず、仕事では資料の修正や忘れ物で上司に度々注意されるようになり、取り返しのつかないミスでクライアントを怒らせて担当を外された。それ以来、雑務ばかりを押し付けられ、やりたい仕事を任されない。その上、同期がどんどん営業実績を上げていき、上司にどんどん褒められている。帰宅後のベッドで(自分、この仕事向いていないのかな…?)とボロボロと涙が出てくることも多々あった。 次に好きな芸人さんが大きな大会で最下位になった。友達から(決勝出ただけですごいじゃん!)と言われるけど、私にとっては全国ネットで流れるくらい大きな大会の決勝で最下位ということは、全国に滑ったことを証明し、「面白くない芸人」とレッテルが貼られるという悲しさだった。本人たちはそれを自虐ネタにしているが、テレビで観ている私にとっては屈辱的だ。 また、好きなアイドルのライブが当たらなかった、コーヒーの詰め替えでコーヒーの粉を零してしまった、仕事の書類をプリントミスしてしまったなどモヤモヤした事が多く、同僚から「表情が曇っているよ!」とまた注意された。 それらが積もりに積もり、(もう、どうにでもなれ!)と思い、思い切って今まで行ったことがない遠いところに電車で行くことになった。 暗い顔になりながら窓の方を見る。 雲ひとつない水色の空に薄橙が入り混じっている。 それを背景に黒い電信柱や家のシルエットがはっきりと映った。 これを見て、私は綺麗だなぁと思い、ぼんやりと電車の中から見つめる。 すると、ピカピカと光り輝く朝日が影の中から照らされていた。 その瞬間、心の中の霧が晴れ、いつの間にか私は目頭が熱くなっていた。 なんて、素敵な光景なんだろう…。自分の視界が晴れるようぐらい綺麗だ…。 目に涙を浮かべながら窓からの風景を見ていると、いつの間にか、降りるの駅のひと駅前に着いた。 電車の開閉音とともにドアが開く。それと同時に私はカバンから手帳を出し、口角を上げながら今の自分の仕事に関する目標とそのためにやることを書き出していった。紙には雫が数滴落ちていた。 手帳をパタッと閉じると正面に写るもう1人の私がニコリと笑っていた。
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