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試合終了の五秒前、二点差。
観衆が息を呑んで見守る静けさの中で、そのボールは綺麗な半円を描いた。
キュッ
逸早く床を擦った音は、あっさりと静けさに吞まれた。
誰も気にとめていないその音こそが、俺を熱くする。
――あいつ……。
投げ放ったボールよりも、俺の目は戦友の姿を捉えていた。
ボールの行く末は、あいつの頭上を越えて――。
パツ
ネットを揺らしていた。
讃えられる歓声は、シューターに向けたもの。
けれど、バックスタンドにいる俺が拳を向けて讃えたいのはセンターの男だ。
「ちゃんと出来るようになったじゃん、スクリーンアウト」
リバウンドに備えた完璧な場所取りと、敵方の抑え込み。
ボールの行く末に、チラリとも気を取られていなかったあいつの勝ちだった。
例えシューターが外したとしても、あいつがリバウンドを取って、決めていたに違いない。
だからこそ、シューターは安心して打てた。
あいつはニンマリと笑って、俺に拳を向けていた。
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