ホイッスルの音 ☆

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ホイッスルの音 ☆

 彼女の目は潤み、顔は真っ赤になっている。 「欲しくてしょうがないって顔だな」  クク、と喉の奥で笑い、祥吾はポケットに忍ばせたリモコンのスイッチを入れた。 「ん! んぁ……っ」  社長室にヴィィィ……と小さなモーター音が鳴り、東が腰をくねらせる。  彼女は下着の下に大人の玩具を入れていた。 「ニップレスはちゃんとしてるか?」  祥吾の問いかけに、東はコクコクと頷く。  目下、祥吾は人妻である東のあらゆる場所を開発していた。  聞くところ彼女は夫とセックスレスになっているらしく、早漏らしい夫を相手にしてもすぐ感じられるように……という名目で、祥吾が色々実験的な事をしていた。  ニップレスを長い事していると、乳首が敏感になるらしいという情報を仕入れ、それを試みている。 「口開けて」  祥吾の命令に、東はM字開脚したまま大きく口を開く。  その口の中に祥吾は屹立を突き入れ、彼女の頭を両手で持って口内を犯し始めた。 「んっんっんっ、んっ、んーっ、んぐぅっ、んぇっ、ぐぅっ」  苦しそうな声を上げながらも、東は乱暴にされるのを喜んでいる。  彼女が被虐的な趣味を持っていると知ったら、早漏な夫ももう少しセックスについて考えを改めるだろうか。 (でも夫婦の問題に俺が口出しする必要もないよな)  無責任にそう思い、祥吾は温かく滑らかな舌に裏筋を擦りつける。  数分、二人の荒々しい吐息と東の苦しげな呻き声、大人の玩具のモーター音が社長室に響く。 「……っ、出すぞ……っ」  高まってきた祥吾は腰の動きを速め、亀頭で東の喉奥を突き上げる。 「ぅぐっ、うーっ、むぐぅっ、ぉごっ、むーっ!」  美しい顔を涙でグシャグシャにした東は、乱暴にされているのと膣に入れた玩具で早くも達していた。  彼女は片手でギュッと祥吾の尻を掴み、自身の陰核に這わせた指の動きを速める。 「――――ぁっ、あぁ……っ!」  祥吾は低く呻き、東の喉奥深くまで亀頭を押し入れたまま、遠慮なく彼女の喉に吐精した。  呼吸を整えながら屹立を引き抜くと、東は教えられた事を守り、口を開いて口内にある白濁を見せてくる。 「よし」  そして祥吾が犬に出す命令のように告げると、東は口を動かしてクチュクチュと精液を含み、喉を鳴らして嚥下した。  さらに淫欲に駆られた目で祥吾の肉棒を見て、何も言われずともしゃぶりつき、残滓すらもきつく吸い上げて飲み下す。 「いい子だ」  上気した東の顔を見て、祥吾は優しく微笑み彼女の頭を撫でる。  そして自分はスラックスのファスナーを上げ、何事もなかったかのようにプレジデントチェアに座った。 「時間までに支度してこい」 「はい」  昼休み、ランチ会食などがない時は、このようにして一時のスリルを楽しんでいる。  お互い深入りはせず、求める快楽が得られればいい。  そう思いながら、祥吾はモニターに目を戻し新規メールを開いた。 ** 「今回はどうぞ宜しくお願い致します」  夜になり、祥吾が向かった料亭で会食をしたのは、馴染みの大手飲食企業の社長だ。  金融業をしていると、当たり前に企業から融資の相談を受ける。  だからこそ祥吾におもねる人は大勢いて、接待を受ける事が多々あった。  美しい器に入れられた旬菜から会席コースが始まり、夏らしいホワイトアスパラの一口豆腐を口に入れ、祥吾は微笑む。  酒は一本数万円する日本酒だ。  高価な酒を、祥吾はその辺の日本酒のようにスルスルと飲んでいた。 「ところで、祥吾さんはいまだ独身を貫かれているのですか?」  焼き物を食べ終えた頃合いで、接待相手がどこか粘つくような笑みを浮かべる。 (ああ、噂の孫娘でも推してくるのかな)  面倒だなと思っていると、案の定彼は自分の孫娘が身内のひいき目なしに見ても可愛いと、デレデレした顔をし始める。 「そろそろうちの孫娘も、結婚を考える年齢になっていまして」 「そうですか。それは大変ですね。良い方が見つかるのを願っています」  サラリとかわす祥吾の言葉に、取引先の社長は苦く笑う。 「うちの孫娘に祥吾さんの話をしたら、『とても素敵な方』と大層気に入ったようでして」  案の定自分をターゲットにしていると言われ、祥吾は何とも言えない笑みを浮かべた。 「生憎ですが、まだ私は身を固めるつもりはありません。最終的には両親や祖父母が納得した女性と……となるでしょうけれど」  自分の後ろに両親、祖父母がいるとチラつかせると、彼も一筋縄でいかないと察したようだ。  そのようなやり取りも慣れていたので、タダ飯を美味しく頂いたあと祥吾は料亭をあとにした。 **  転機は彼が六本木に住んでいる愛人宅まで遊びに行き、さんざんセックスをして朝方に西麻布にある自宅に戻ろうとした日曜日の早朝だった。  まだ人通りの少ない道を歩いて適当にタクシーを拾おうとした時――。  背後から足音が聞こえていたが、早朝とはいえ、ここは東京なので普通の通行人かと思っていた。  ――が、  タタッとその足音が速まったと思った時、祥吾は嫌な予感を覚えて振り向いた。  その瞬間、フードをすっぽり被った全身黒ずくめの者――男か女か分からない――が、ブンッと何かを振り回した。 「わっ!」  祥吾は一瞬体を引き、〝それ〟から逃れようとするも、相手が包丁を持っていると理解して血の気を引かせた。  そして一瞬だが、切っ先がビッと胸板から二の腕を切り裂き、Tシャツが破れてその下の皮膚から血が滲み出る。  恨みを買った覚えは――ありにありすぎて、分からない。  何人も女を寝取ったし、土下座して頼み込む取引先相手に嫌みを浴びせた事もあった。  失敗した部下がやはり土下座した頭を踏みつけ、口を舐めさせた事もあった。  産まれた時から成功する人間として生き、傲慢に育ったからこそ、祥吾は人を強く惹きつけつつも恨みを強く買うタイプであった。 (やばい! 殺される!)  一瞬にして自分が通り魔に襲われた事件が、新聞や週刊誌の見出しになる事を想像し、祥吾は顔を青くする。  その時――、ピィィイィッ! と都会のど真ん中でホイッスルの音が聞こえた。
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